歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

スコットランド臨床評価プログラム ガイドライン

Management of acute dental problems during COVID-19 pandemic

March 30, 2020

Scottish dental clinical effectiveness programme(SDCEP)

 

www.sdcep.org.uk

 

あまり聴き慣れない組織でしたが(私だけ?)、内容は簡潔で分かりやすいものでした。

組織系統が異なるため、そのまま日本へ応用することは難しいのですが、示唆に富む内容でしたので解説を交えてご紹介いたします。

本記事は「日本の歯科医院もこのガイドラインに従うべきだ」という意図での発信ではありませんので、誤解のないようお願いいたします。 

では解説を交えて紹介します。

(なお私の責任において注釈を付与したり、内容が変わらない範囲で加筆・修正をしています。)

 

また、今後日本における対応、ガイドライン等との対比も掲載し、より応用しやすいように変更・修正して参ります。

 

目次

  

前文

このガイドラインはSDCEPが以前出した「急を要する歯科治療と急性期の歯科的問題の管理ガイドライン」に基づいており、COVID-19のパンデミック期間中における、一般的な口腔管理について改編されたものである

これまであったガイドラインをCOVID-19向けに修正したものです。

 

このガイドラインは、COVID-19が歯科治療に与える課題を認識しつつ、急性期の歯科的問題のマネジメントに関して一貫的な対応を行うことを目的としている

また、COVID-19の状況に応じて、保健所やその他の地域のごとの対策と組み合わせてよい

歯科領域だけでなく、地域におけるCOVID-19の影響も加味して対策を考える際のたたき台として用いることも想定しているようです。

 

このガイドラインで推奨するマネジメントオプションは、疼痛や感染の緩和、リモートコンサルテーション(電話やビデオ通話)でのケアに重点を置いた、歯科的トリアージに焦点を置いている

なるべく患者との接触頻度を減らすことを主目的にしています。これはADAやCDCのガイドラインと似ています。

 

 

masaomikono.hatenablog.com

 

 

masaomikono.hatenablog.com

 

 

患者に自分自身ではコントロールできない、または重度な症状がある時には、救急部門に紹介するべきである

一方で、救急部門に紹介される患者数を最小化することは、救急医療従事者や患者にCOVID-19が伝播するリスクを減らすこと、その部門にかかる負担を減らすことができるため重要である

COVID-19診療の最前線である救急部門の医療資源の消費や負担を軽減する、という社会的な重要課題を優先しています。 

 

この文書は以下のことを含んでいる

 

原則

患者の評価においては、

⑴ 患者とスタッフの安全

⑵ 患者の最善の利益

⑶ 担当する歯科医師の判断

⑷ 地域の救急部門の空き状況

⑸ 緊急度の高い治療の優先順位

を考慮する必要がある

⑴COVID-19の感染拡大を防ぎつつ、⑵⑶歯科医療を提供できるかどうか判断し、⑷⑸緊急度に応じた対応を、一般開業医に対して求めています。

 

それぞれの患者のCOVID-19の状態は、それぞれの地域の保健所等のプロトコルを用いて確立、記録する

この記録により、もし救急部門に紹介した場合、そこでの受け入れ方法が決まる

別途、それぞれの地域の保健所からCOVID-19の状態を記録するものが送付されているのでしょうか(確認中)。

一般開業医が電話で聴取することでその役割を担うようになっているようです。

これにより救急部門や保健所の負担を減らすことができますね。

 

歯科的トリアージの初期対応では、以下の3つに重点を置く;

助言

鎮痛薬

抗菌薬(適切な場所で)

鎮痛薬はOTC薬がありますが、抗菌薬は日本では処方するしかありませんから、すぐに応用はできません。

ただ、徹底的に患者との接触をなくそうという方針であることが分かります。

 

患者には現時点では治療オプションが極めて限られていることを教えなければならない

また48〜72時間後に、その症状が解決しているのか電話をかけ直して確認しなければならない。

患者にも一定の我慢を強いる政策です。

必ずフォローアップをするように求めています。

 

地元の薬局と連絡を取り、患者に勧めることが予想される医薬品の在庫があるか確認すること

歯科的な問題が患者自身では管理できず、急を要する歯科治療が必要な場合、NHS24/111(無料の医療相談)か地域ごとの方法で、指定された急を要する歯科治療を行う医院へ紹介すること

*救急部門とは別に、*急を要する歯科治療を行う医院が設けられているようです。

 

*原文では urgent dental care と emergency dental care とに分類されていました。

本ブログでは前者を「急を要する(歯科)治療」、後者を「救急(歯科)処置」、提供する施設をそれぞれ「緊急的な歯科処置を行う歯科医院」、病院の一部門である「救急歯科部門」と表記します。

ただ urgent dental care を行う施設がどういうものなのか、定義が書いていない(スコットランド国内向けだから当然ですが)ため詳細については分かりかねます。もしご存知の方がいらっしゃいましたら、ご一報いただけますと幸いに存じます。

 

治療・管理の履歴や紹介以後も含め、すべての患者との接触を適切な記録を保管しなければならない

もし患者がCOVID-19に罹患していた場合の追跡のためでしょう。

 

紹介は地域のガイドラインやテンプレートに従わなければならない

地域ごとの医療体制によって柔軟に対応を変えている様子が伺えます 

 

以下のフローチャートと一覧表は、遠隔での助言の提供や鎮痛薬・抗菌薬の推奨、必要なら、急を要する歯科治療を行う医院や救急部門への紹介など、歯科的トリアージに使用することができる

 

歯科的トリアージフローチャート

以下のフローチャートは、電話等による患者に対する治療・管理の方法を図示したものである

包括的なものではないが、一般的な症状の取扱いについて記載している

それと合わせて、それぞれの患者のCOVID-19の状態を地域の保健所等のプロトコルを用いて確立、記録する

 

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トリアージフローチャート

 

セルフヘルプ( self-help )は良い日本語が思い浮かばなかったので、そのままカタカナにしました。

このフローチャートと以下の疾患と症状の一覧表に沿って、機械的に対応を決めてしまうようです。

次にご紹介する一覧表をご覧いただくとよりはっきり分かりますが、基本的には赤色の救急部門への負担を減らすことを目的としています。

黄色の急を要する歯科治療を行う医院は、日本では該当するものがありません。

しかしこういった歯科医院があってもいいような気もします。

 

一般的な口腔内の諸問題に対する対応策の一覧表

以下の一覧表は、電話でよく相談される口腔内の疾患や症状と、COVID-19のパンデミック期間に厳しく限定された治療・管理オプションの概略である

包括的な内容ではないが、よくある口腔内の諸問題について記載している

網羅的に記載されており、大体のことはこの一覧表に載っています。

この一覧表と先のフローチャートの組み合わせは、汎用性が高いと思います。

 

スコットランド政府の)自己隔離政策や自己防護政策により、(堅実にそれに従った)患者は相談する前に、症状を自分で管理しようとしたかもしれません

薬の過剰摂取の可能性を知るために、患者のこれまでの鎮痛薬の使用を含む自己管理方法を確認することが重要である

鎮痛薬が一般の薬局で買えるという点は日本も変わりありません。

過剰投与で別の問題を引き起こしてしまっては本末転倒ですから、十分に注意する必要があります。

 

下にある表のように、3通りのマネジメント方法がある

 

助言とセルフヘルプ

軽度から中等度の症状は、一般歯科医院の遠隔での助言と、鎮痛薬や抗菌薬の使用も含む”セルフヘルプ”により管理する

 

急を要する歯科治療

患者自身でマネジメントできない重度・コントロール不能な症状がある場合、指定された急を要する歯科治療を行う医院を受診する必要がある

 

救急処置

医学的な治療がすぐに必要な緊急事態にある患者は救急部門を受診させる

 

 

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まとめ

このフローチャートと一覧表は分かりやすく、活用しやすいと思います。

 

COVID-19の病状の聴取に関する情報はCDCやADAのガイドラインが詳しいので、そちらを参照し、合わせて用いることも良いと思います。

 

masaomikono.hatenablog.com

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所感

CDCやADAのガイドラインの方が日本の現状(2020年5月2日)の対応に近いとは思いますが、もし感染が拡大してしまうような事があれば、このスコットランドガイドラインような対応も止むを得ないのかもしれない、と思いました。

 

もしもの時のために、例えば換気がしやすい構造、口腔外バキュームが揃っている、などの条件を満たす歯科医院を「急を要する歯科治療を行う医院」とし、そこに物品や人員を集約する、それ以外の歯科医院は電話対応に専念する、というプランBを用意しておいてもいいのかもしれません。