歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

歯科医療従事者向け COVID-19に対する暫定的な感染制御、感染対策のCDCガイドライン

米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention : CDC)

が2020年4月7日に、歯科医療従事者向けの暫定的なガイドラインを発表しました。 

 

www.cdc.gov

米国国内向けのガイドラインですから、感染拡大の状況等の違いも考慮しなければなりません。 

従って本記事は「日本の歯科医院もこのガイドラインに従うべきだ」という意図での発信ではありませんので、誤解のないようお願いいたします。 

では解説を交えて紹介します。

(なお私の責任において注釈を付与したり、内容が変わらない範囲で加筆・修正をしています。)

 

また、今後日本における対応、ガイドライン等との対比も掲載し、より応用しやすいように変更・修正して参ります。 

 

4月27日に一部追加されたので近日中に再upします。

 

目次

 

このガイドラインを3行でまとめると

  • 緊急性のない歯科治療は延期する
  • 緊急性のある歯科治療であってもエアロゾルの発生を伴う治療は避ける
  • 歯科医院での感染予防策の導入よりも、社会における感染拡大を防ぐことと、医療資源の消費を抑制することを目的としている(勧告の目次の順番からそれが読み取れる)

 

重要事項(CDCが強調していること)

・歯科治療には、追加の感染対策が必要となる特殊性がある
・緊急性のない歯科治療は延期する
・患者やスタッフに対して、体調が悪いときには家にいるように発信する
・自施設にCOVID-19患者が入院したときに取るべき措置を知る

以上の4点が重要事項として挙げられていました。

一般の歯科診療所においては、はじめの3点が該当します。

 

COVID-19のパンデミック中でも緊急の歯科治療が必要になることがある

情勢は急速に変化しているため、歯科医療従事者は州の機関等に定期的に状況や対策の確認を取らなければならない

ここは日本でも当てはまる内容でしょう。

(公的機関や職能団体が積極的に責任ある発信をしてくれれば動きやすいのですが…)

 

このガイドライン

・CDC’s Interim Infection Prevention and Control Recommendations

・Interim Additional Guidance for Outpatient and Ambulatory Care Settings

・Responding to Community Transmission of COVID-19 in the United States

に歯科に関する注意点を補うものであり、これらに変わるものではない

www.cdc.gov

 

ガイドライン制定までの背景

COVID-19とSARS-CoV-2について

感染経路

主に飛沫感染によって広がると考えられている

環境表面では数日生存する(接触感染に注意が必要)

空気感染は考えにくい

エアロゾルの中で数時間生存する

エアロゾルによる感染についてははっきりしていない

感染対策としては標準予防策(スタンダードプリコーション)に加え、飛沫感染予防策接触感染予防策を行う必要があります。

現在のところ、空気感染は否定的です。

感染性のあるエアロゾルがどれくらい空気中で生存するのかは分かっていません。(3時間とする論文がありますが実験条件下ですから、、、)

(また、エアロゾルの定義が国や機関によってまちまちであり、混乱の一因となっています)

患者の特性

発症前、あるいは無症候期に感染を拡大する可能性があることが指摘されている

誰しも感染しているという前提、すなわち標準予防策の考え方で対応する必要があることが分かります。

 

歯科治療の特殊性について

エアロゾルの発生

ハンドピースや超音波スケーラー、3wayシリンジなどにより唾液や血液、微生物、切削片などを含むエアロゾルが発生する

目に見える飛沫(水滴)はわずかな距離で環境表面(床や術野、歯科医療従事者、患者)に付着する

サージカルマスクはこれらの飛沫から口や鼻の粘膜を守るが、空中にある感染性物質の吸入を完全に防ぐものではない

標準予防策で歯科医療従事者が適切に保護されているのかどうかを確認する十分なデータは存在しない

SARS-CoV-2の感染を従来の標準予防策で防ぐことができるのか、特にサージカルマスクで防ぐことができるのかは、まだはっきりしていません。

歯科医院での感染例

米国においては、病院や長期療養施設におけるCOVID-19のクラスター発生例は報告されているが、歯科医院におけるクラスター発生例は報告されていない

2020年4月9日時点でのガイドラインですから、その後は分かりません。

歯科医療従事者の曝露リスク

労働安全衛生局(OSHA)のGuidance on Preparing Workplaces for COVID-19では、歯科医療従事者は曝露を受ける可能性が高いため、「very high exposure risk」に分類されている

実際にこのリストを確認すると、職種別にリスク分類がなされていました。

歯科医師は「エアロゾルを発生する治療」を行う医療職として分類されています。

f:id:masaomikono:20200423111620p:plain

曝露リスク「とても高い」に分類された職種

f:id:masaomikono:20200423111400p:plain

職種別の曝露リスク分類

OSHA : Guidance on Preparing Workplaces for COVID-19のリンクはこちら

https://www.osha.gov/Publications/OSHA3990.pdf

 

ここで注意すべきポイントは、このリストは「感染リスク」ではなく「曝露リスク」の分類であるという点です。

「曝露リスクが高い」からこそ医療従事者は適切な感染予防策を採るわけですから、このリストを根拠に「感染リスクが高い」と考えるのは早計です。

従ってこのリストから分かることは「曝露リスクが高い」ので適切な感染予防策を採用しましょう、という(実に当たり前の)ことです。

歯科医院での感染リスク

歯科治療によりエアロゾルが発生している間、空気感染予防策を採用しないとSARS-CoV-2感染のリスクは排除できない

ここは誤解を招きかねない点なので注意しなければなりません。

現在のところ、SARS-CoV-2が空気感染するという根拠はありません。

しかし従来の飛沫感染予防策だけでは防ぎきれないかもしれないため、その上の空気感染予防策を採用することが推奨されているのです。

空気感染予防策が必要な場合、ほとんどの歯科医院にはその設備や装備がない

例えば陰圧室や個室がなく、N95マスクは備蓄していない

従ってほとんどの歯科医院では空気感染予防策を行うことは不可能である

これはそのまま日本にも当てはまります。

 

CDCの勧告

緊急性のない歯科治療の延期

パンデミックの期間中は緊急性のある処置に限定されるべきである

こうした行動は患者とスタッフ守り、PPEなどの医療資源を節約し、医療のキャパシティを増加させることにつながる

この勧告は、歯科を含む計画されていた必須ではない手術や処置は制限するように述べているメディケア・メディケイドセンターのAdult Elective Surgery and Procedures Recommendationsと協調したものである

この勧告は、追って通知があるまで継続する

歯科で消耗する医療資源をなるべく少なくして、まさに緊急で必要としている医療機関へ配分することを歯科医療従事者へ促すことがこの勧告の主目的のようです。

Adult Elective Surgery and Procedures Recommendationsのリンク

https://www.cms.gov/files/document/cms-non-emergent-elective-medical-recommendations.pdf

 

「体調が悪いときには家にいる」

歯科医療従事者に対して

従業員に呼吸器感染症の症状があるときには家にいることを許可すること

公衆衛生のためにも、柔軟で懲罰的でない病気休暇制度を採用すること

もしスタッフの体調が悪いようなら家にいるように命じること

仕事中に体調が悪くなったときは家に帰らせること

患者に対して

受診する患者全員に呼吸器疾患の症状(発熱、咳、息切れ)がないか、電話による問診を行う

もしそのような症状があれば歯科治療は避けるべきである

呼吸器疾患の症状が回復するまで緊急性のある歯科治療でも延期する

 

緊急性のある歯科治療を行う場合、事前に患者と連絡を取る

緊急性のある歯科治療が必要になった患者全員に電話によるトリアージを行う

患者の歯科的状況を評価し、歯科医院への受診が必要かどうか決定する

遠隔会議や遠隔歯学(アメリカではこういった領域があるのでしょうか??)を歯科医院受診の代替オプションとする

もし歯科治療を遅らせることができるなら、患者には詳細なホームケアの指導を提供し、適切な投薬を行う

緊急性があっても、なるべく歯科医院への受診は避けるようにとの勧告です。

またこの電話によるトリアージを導入する場合、歯科医師が自ら電話口で対応することが望まれます。

 

COVID-19パンデミック期間中、COVID-19患者に対する緊急的な歯科治療

自施設にCOVID-19が確定しているまたは疑われる患者が来院した場合

・歯科治療は延期する

・マスクを与え、口や鼻をおおう

・急性症状がなければ、患者を家に帰し、関係機関へ連絡するように指導する

・急性症状(例えば呼吸困難)があれば、患者を医療機関へ紹介する

(世の中には驚くような方もいらっしゃいますからね…)

もしCOVID-19が確定しているまたは疑われる患者に緊急的な歯科治療が必要な場合、空気感染予防策(陰圧室とN95マスクの使用)が必要である

空気感染予防策が採用できている施設で治療を行うべきである

一般の歯科医院では想定しにくい環境です。

 

COVID-19パンデミック期間中、COVID-19ではない患者に対する緊急的な歯科治療

もし緊急的な歯科治療が必要なら、来院時に以下の全身的な評価を行う

・発熱の有無

・呼吸器感染症の症状の有無

・COVID-19が発生している地域への旅行歴の有無

・COVID-19患者と接した可能性の有無

発熱がなく(体温100.4℉未満=38.0℃未満)、COVID-19の症状がなければ、緊急的な歯科治療は適切な管理のもとで提供できるだろう

日本では37.5℃が目安となっています。

 

技術的な管理と労務管理

可能な限りエアロゾルが発生する処置は避ける

ハンドピースや3wayシリンジの使用を避ける

超音波スケーラーの使用は推奨されない

最小限の侵襲や非侵襲的な修復処置(手用器具のみ)を優先する

もし緊急的な歯科処置に際してエアロゾルの発生する処置が必要な場合は4ハンドで行い、口腔外バキュームとラバーダムを使用してエアロゾルの発生を最小限にする

 

感染制御において考慮すること

可能な限り最高レベルのPPEを使用する

マスクについて

COVID-19ではない患者にも可能であればN95マスクまたはそれと同等のマスクを使用する

治療エリアや病室から出た後に外して廃棄する

アイプロテクション(眼の保護)について

再利用できるアイプロテクションは製造元の指示に従い洗浄・消毒する

ディスポーザブルのものは使用後に廃棄する

ガウン・エプロンについて

汚染したら廃棄する

治療エリアや病室を出る前に脱いで廃棄する 

N95マスクがない場合

サージカルマスクとフルフェイスシールドを併用する

FDAがサージカルマスクとして認めたものを使用する

・治療エリアや病室を出た後に外して廃棄する

・治療中にサージカルマスクが濡れたら交換する

サージカルマスクとフルフェイスシールドが使えない場合

全ての緊急的な歯科治療は行わず、対応可能な歯科医院へ患者を紹介する

手指衛生について

患者に触れる前後

汚染された環境表面や道具に触れた後

PPEを外した後

環境整備について

Guideline for Infection Control in Dental Health-Care Settings 2003に従い、部屋や器具を清掃、消毒する

症状のある患者から6フィート以内にある環境表面や消耗品、機器を清掃、消毒、廃棄する

EPA(Environmental Protection Agency : 環境保護庁)がSARS-CoV-2に効果があると承認した製品を用いる 〜EPAのwebサイトの リストN を参照〜

CDC : Guideline for Infection Control in Dental Health-Care Settings 2003のリンク

www.cdc.gov

EPAのリストNのリンク

www.epa.gov

従業員の体調管理について

従業員に対して勤務開始時に発熱と呼吸器症状(息切れや咳、喉の渇き)についてスクリーニングを行う

もし体調が悪ければ、マスクを装着させ、職場から離れさせる

 

COVID-19に関連する隔離措置を完了した患者について

隔離措置を完了した患者は、緊急的な歯科治療を受けることができる

隔離完了の判断には2つのストラテジーがあります。

Non-test-based-strategy:検査を行わなかった場合

症状が改善*してから少なくとも3日(72時間)経過し、かつ初めて症状が出てから少なくとも7日経過していること

 Test-based-strategy:検査を行った場合

・COVID-19陽性で、症状があった人:

 症状が改善し、かつ24時間以上空けて2回検査で陰性であった場合

・COVID-19陽性で、症状がなかった人:

 少なくとも最初の検査から7日経過しており、その後発症しなかった場合

* 発熱が解熱剤を使わなくても解熱し、咳や息切れが改善すること 

 

潜在的な曝露に対するガイダンス

無症候や発症前のCOVID-19患者に対して緊急的な歯科治療を気付かずに行う可能性があるため、この項目が設けられています。

緊急的な歯科治療を受けた患者に対して、処置の48時間後に患者に連絡し、COVID-19の症状や所見が現れていないか尋ねる

もし患者がCOVID-19の症状や所見を報告したら、医療機関へ紹介する

自分自身はCDCのHealthcare Personnel with Potential Exposure Guidanceに従う

受診48時間後の確認を行うように要請しています。

CDCのHealthcare Personnel with Potential Exposure Guidanceのリンク

https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/guidance-risk-assesment-hcp.html

 

緊急事態と危機に対する備え

主に医療資源の不足を予防するための勧告です。

米国国内事情を反映しているため、一部は紹介するにとどめます。

米国の主要代理店はPPE、特にサージカルマスクとN95マスクが不足していると報告している。

いつ通常のPPEの供給レベルに戻るか分からない。

CDCはPPEの供給が限られている時期における、医療機関へのPPEの供給と消費を最適化する戦略と情報を提供する“燃費計算”を開発した。

これはCOVID-19のパンデミック期間中にのみ有効である。 

医療資源に厳しい制限がある期間中は、COVID-19の重症化リスクの高い人**は緊急的な歯科治療の対象から除外することを考慮する

重症化リスクの高い人への配慮は十分に行う必要があります。

** 高齢者や慢性疾患のある人、妊婦など

 

まとめ

 

あくまでCDCのガイドラインであり、日本政府から日本の歯科医療機関へ出されている勧告とは異なる点については十分に留意してください。

また、医療資源が十分に供給されるようになれば勧告の内容が変わる可能性があります。

また、歯科医療従事者自身がCOVID-19の重症化リスクの高い人であれば、さらに慎重な対応が求められることを付言しておきます。

 

補足

このガイドラインをもとにしたADA(アメリ歯科医師会)のガイダンスについて

 

masaomikono.hatenablog.com

 

スコットランドガイドラインについて

 

masaomikono.hatenablog.com