歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

ADA 急を要する歯科治療とは

この資料のリンク(画像をクリック)

https://success.ada.org/~/media/CPS/Files/Open%20Files/ADA_COVID19_Dental_Emergency_DDS.pdf

目次

この資料を3行でまとめると

  • 救急処置が必要な状態、急を要する歯科治療が必要な状態、不急と言える歯科治療、の解説がなされている 
  • 救急部門への負担を軽減するような対応を歯科医師に求めている
  • 電話による問診や対応についてはスコットランドガイドラインの方が詳しい

 

背景

ADAのガイダンスでは、急を要する歯科治療以外の診療を止めるようにとの発表がなされました。

ADAのガイダンスでは「急を要する歯科治療」の定義がなされていませんでしたので、この資料で具体的な処置内容を列挙しています。

ADAガイダンスはこちら

masaomikono.hatenablog.com

 

内容

前文

ADAとしては、各州の歯科医師に対して緊急の歯科治療を除き、歯科医院を閉鎖する期間について勧告を出すのは州政府と州の歯科医師会が適していると認識している。

流動的な状況であり、各州の抱える問題に最も近い人が最もよく理解しているからである。

アメリカは広いですし、州ごとの権限が大きいですから、一律に決定することには無理があるのは想像に難くありません。

ただ日本も都道府県ごとに感染拡大の状況が異なりますから、長期戦の様相を見せるなか、歯科医院も一律の対応でなくてもいいと思います。

とは言え、行政等の号令がないと、個々の歯科医院で判断することは非常に難しいですね。 

救急処置が必要なもの

歯科領域で救急処置が必要な状態とは以下の通りである。

  1. 生命に危険がある可能性があるもの
  2. コントロールできていない出血、止血のためにすぐに処置をしなければならないもの
  3. 激しい疼痛や感染を緩和するもの
  4. 蜂窩織炎や口腔内外にわたる腫脹を伴う瀰漫性の軟部組織感染症で、気道閉塞の危険性があるもの
  5. 顔面の骨折を含む外傷で、気道閉塞の危険性があるもの

ADAガイダンスよりも詳しく記載されています。

ただ、なるべく救急部門には負担をかけるべきではありませんので、次の「急を要する歯科治療」がその患者さんのみならず、社会的にも非常に重要となります。

今のような状況では、この点にこそ歯科医療の存在意義があると思っています。

急を要する歯科治療が必要なもの

急を要する歯科治療とは、激しい疼痛や感染症のリスクを軽減し、病院の救急部門の負担を軽減するため状況をマネジメントすることに集中することである

可能な限り少ない侵襲で治療されるべきである

なるべく救急部門の負担を減らすことが求められています。

これは日本でも同じことが言えるでしょう。

少なくとも一定数の歯科医院が稼働していないと、最前線の医療を支えることはできません。

急を要する主な歯科治療が必要な状態として、以下のものが例示されています。

  1. 歯髄炎による激しい疼痛
  2. 歯冠周囲炎や智歯の痛み
  3. 術後の顎骨炎、ドライソケットの保護材の交換
  4. 膿瘍、局所的な感染による疼痛や腫脹
  5. 歯の破折による疼痛や軟組織の損傷
  6. 脱臼や脱落を伴う歯の外傷
  7. 重要な医学的治療に先立って必要な歯科治療
  8. 暫間的補綴物が無くなったり、壊れたり、歯肉への刺激となっている場合の最終補綴物(クラウン・ブリッジ)の合着
  9. 生検

上記のような症状は、確かに歯科医院で対処可能なものが多く含まれます。

一方で放置すると悪化する可能性のあるものばかりです。

また補足として、以下のものも例示されています。

  1. 広範囲な齲蝕や修復物の欠損により生じた疼痛
    …できれば暫間的な修復処置(フッ化ジアミン銀、グラスアイオノマー)
  2. 抜糸
  3. 放射線治療を受けているがん患者の義歯調整
  4. 機能障害がある時の義歯調整
  5. 疼痛を経験している歯内療法中の歯の暫間的開口部閉鎖(厳重な仮封?)
  6. 粘膜に潰瘍を形成したり刺さっている矯正ワイヤーの調整や切断

不急といえる歯科治療

口腔内診察や歯周検査のための受診

口腔内診察や歯周検査が不急、ではありません。

必要に応じて行うべきです。しかし、そのためだけに受診するのは不急と言えます。

ルーチンのエックス線検査を含むリコール

ルーチンのクリーニング、予防的処置

ルーチンの、をどう捉えるかで幅を持った解釈が可能です。

それこそ個々の症例によってその必要性は異なるでしょう。

従って個人的には、リコールは一律不急だ、とする意見には同意しません。

急性の問題(疼痛、感染、外傷など)に対処する以外の矯正治

患者に危害が加わらないようにするための処置以外の矯正治

治療の時期を逃すことが、患者に危害を加えると判断できることもあるでしょう。

症状のない歯の抜歯

症状のない部位のう蝕に対する修復処置

感染が拡大しているアメリカでは仕方ない判断でしょう。

審美治療

ご本人にとっては急である場合でも、医学的には急でないと判断できるため、説得に難渋することもあるのでしょうか…

 

まとめ

比較的妥当性の高い分類であると思います。

この資料には電話による問診や指示方法の記載はありません。

スコットランドガイドラインはより具体的な病名ごとの対処方法、特に電話での指示方法が具体的に記載されています。

こちらも合わせて参考になさってください。

スコットランドガイドラインはこちら

masaomikono.hatenablog.com