歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

バイオエアロゾルによって汚染された環境表面の清掃・消毒 エアロゾルシリーズ⑤

前回のブログではエアロゾルがどれくらいの範囲を汚染するのかについて解説いたしました。

 

では汚染されたところはどのように清掃・消毒すればよいのでしょうか。

 

シリーズ一覧

第1回 エアロゾルとは何か?

第2回 バイオエアロゾルが発生する状況(歯科領域)

 第3回 バイオエアロゾルはどれくらいの時間、空中に浮遊するのか

 第4回 バイオエアロゾルはどれくらいの範囲を汚染するのか
 第5回 バイオエアロゾルによって汚染された環境表面の清掃・消毒 ←いまここ

第6回 バイオエアロゾルの発生を抑制またはリスクを減らす方法

 

歯科領域における清掃・消毒の効果

環境表面

  • 診療室内はプロトコルに従った患者ごとの清掃・消毒、診療室外は日常清掃を行っている歯科診療室で、環境表面の細菌汚染を調査した研究83)では診療室内外ともに細菌汚染は認められた(内外で有意差なし)
    小児向けのギフトボックスは高度に汚染されていた(他と有意差あり)が、清掃・消毒方法を変更すると細菌汚染はなくなった 

今ではほとんどの歯科医院から共有物を減らす取り組みがなされているかと思います。

  • 消毒前の環境表面からは様々な細菌汚染が認められたが、消毒後は陰性であった
    歯科診療における許容可能な環境表面の汚染レベルに関するコンセンサスはない30)

消毒後は”ほぼ”細菌汚染はなくなると言って差支えなさそうです。もちろん正しい方法で、の場合ですが。

どれほどの洗浄・消毒が必要なのか、どこまで行えばいいのか、ははっきりしていません。

 

ルーペ

  • 推奨された消毒プロトコルで消毒すると、ほぼ汚染は認められなくなった
    推奨された消毒プロトコルを遵守することが大切である70)

レンズ面は消毒できないと説明して販売されているルーペがほとんどだと思います。

こうした使用後の消毒や滅菌を考慮していない製品はルーペ以外にも多くありますが、このあたりもwith コロナ時代の課題だと思います。

現在ルーペをご使用中の方は、一度消毒方法について確認なさるといいでしょう。

個人的にはレンズの保護キャップが装着できるタイプが望ましいと考えています。フェイスシールドから突き出して使用しても清掃・消毒が可能です。

今後購入を考えていらっしゃる場合はぜひ参考になさってください。

 

清掃・消毒が疾患発症リスクを軽減したと考えられる例

  • 小学校で消毒液を使った定期的な清掃を導入すると、呼吸器疾患や下痢の発生率が減少した84)

清掃・消毒により「細菌汚染が減少した」とする報告は多いですが、実際に「疾患発症リスクが減少した」とする報告は多くありません(手術室に関連するものはあります)。

 

SARS-CoV-2に関して

  • SARS-CoV-2で汚染されている可能性のある表面は、少なくとも62%以上のアルコール、0.5%の過酸化水素、または1,000ppm(0.1%)の次亜塩素酸ナトリウムにより、1分以内に消毒することができる85)
  • 最も重要な解決策は、水と洗剤で表面を洗浄した後、アルコール(62~71%)、または過酸化水素(0.5%)または次亜塩素酸ナトリウム(0.1%)で1分間の接触時間で消毒することである86)
  • 次亜塩素酸ナトリウム(0.1%)で、接触の多い環境表面の洗浄・消毒を行うこと87)

厚生労働省やWHOも、環境表面を水と洗剤で清掃した後、次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒することを推奨しています。

目に見える汚染がある場合は水と洗剤による清掃→次亜塩素酸ナトリウムで消毒、目に見える汚染がない場合は次亜塩素酸ナトリウムで消毒、で良いでしょう。

  • 手で環境表面に触れる頻度を減らし、環境表面を消毒することで、表面へのコロナウイルスの量と感染率を減らすことができることが示されている86)
  • 手指衛生はウイルスの拡散に対する重要な対策であり、これは当然SARS-CoV-2にも当てはまる88)89)

汚染された(と考えられる)部分を不用意に触れないことも重要なことです。

そして手指衛生は医療関連感染(院内感染)を防ぐ上で、最も重要な対策です。

 

環境表面の清掃・消毒の前に

環境表面の清掃・消毒は簡易的であればあるほど良いものです。

(だからと言って科学的に推奨されていない安易な方法には飛びつかないようにしましょう。)

環境表面の清掃・消毒がやりやすい「環境整備」をしておくと、あとが楽になります。

環境整備については各歯科医院の状況によって左右されますので、ここでは一般的な項目について記載します90)

  • 診療室の床は清掃が容易で、防水性のよいものが望ましい
  • 診療室の床にはカーペットは避けるべきである
  • 家具類は清掃しやすい構造のもの、消毒薬に十分な耐久性のある素材が望ましい
    浸透性やざらつきのある素材は避けるべきである
  • 使用しない器具類はバイオエアロゾルによる汚染を避けるため戸棚に収納しておく
  • 扉のない戸棚よりも扉付きの戸棚が望ましい
  • 手洗い設備は水はねのしにくい洗面台が望ましい
    自動水栓またはフットペダル式水栓が望ましい
    手指の乾燥に共用タオルを用いてはならない
  • 横型ブラインドは避けるべきである

 

 

次回はバイオエアロゾルの発生を抑制またはリスクを減らす方法について解説いたします。

 

備考

個別具体的なご質問やお問い合わせにつきましては、以下のメールアドレスまたはFBのメッセンジャーからお願いします。

masaomikono*gmail.com (*を@にしてください)

 

参考文献

30. Rautemaa R. J Hosp Infect, 2006; 64: 76-81.

70. Zwicker H. D. JADA, 2019: 150: 689-694

83. Denise A. JADA, 2012; 143: 164-169.

84. Bright KR. J Sch Nurs, 2010; 26: 33-41.

85. Kampf G. J Hosp Infect, 2020; 104: 246-251. 

86. Hadi E. AMB Expr, 2020; 10:92.(pre-print)  doi.org/10.1186/s13568-020-01028-0

88. Lotfinejad N. J Hosp Infect. (pre-print) doi:10.1016/j.jhin.2020.03.017

89. Lynch C. J Hosp Infect. (pre-print) doi:10.1016/j.jhin.2020.03.013

90. Damani N. Oxford University Press, 2012.