歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

Ci で販売されている抗体検査について

知人のA君から「Ciでクラボウの抗体検査キットが売っているよ」と連絡を受け、「どうせAの勘違いだろ」と思いながらCiの通販サイトを確認したところ、本当に売っていて驚きました。

https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwiJtdaPkYPqAhVaL6YKHey1CCoQFjAAegQIBRAB&url=http%3A%2F%2Fwww.ci-medical.com%2Fshop%2Fg%2Fg801100934%2F&usg=AOvVaw3wSDilzLZIvY4syHDA9XYq

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まさか…とは思いますが、念のため抗体検査について記載しようと思います。

 

抗体検査とは

抗体検査とは、過去の感染の有無を判定することができる検査法です。

 

SARS-CoV-2の場合

真陽性であった場合、「現在感染しているか」または「過去に感染していて回復していたか」のどちらかであり、PCR検査を行い診断することになります。

SARS-CoV-2に対する免疫が続く期間は短い可能性も指摘されており、また十分な抗体価が獲得できているのか、免疫として有効な中和抗体が検出されているのかも分かっていないため、現在のところ、いわゆる「免疫パスポート」としての働きも期待できません。

真陰性であった場合、「これまでに感染していない」ということであり、「これから先、感染することができる」ということが分かるだけです。

(PCR検査で陰性であった場合、追加で補完的に抗体検査を行うことはありえます。)

歯科医院で検査を行った場合、個人レベルでは陽性であっても陰性であっても、歯科医院がその結果を生かすことはできません。

集団レベルでは、検査の精度が高ければ疫学調査に用いることができます。

実際わが国でも厚生労働省が主導して研究が行われています。

https://www.mhlw.go.jp/content/000637285.pdf

 

 

「クラボウの検査キット」

クラボウは正式名称は倉敷紡績株式会社と言うそうです。

また検査キットはクラボウ自身が開発したものではなく、中国の企業(未公表)が開発したものをクラボウが輸入・販売しています。

よって「クラボウの検査キット」という表現は厳密には正しくありませんが、報道等でも使われていた表記ですので、これを踏襲します。

そして残念ながらこのクラボウの検査キット、精度の低さが問題となっています。

神戸で行われた抗体検査の研究でもクラボウの検査キットが用いられましたが、著者らも一般的な風邪の原因となるコロナウイルスを検出している可能性があるなど、その精度に疑問があると述べています。

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.26.20079822v1.full.pdf

アメリカFDAでもクラボウの検査キットは承認されていません。

先ほども紹介した厚生労働省が主導している抗体検査を用いた疫学調査でも、クラボウの検査キットは採用されていません(特異度が高くないといけない)。

https://www.mhlw.go.jp/content/000637285.pdf

 

厚生労働省が日赤の協力を得て実施した、保存血液を用いた5種の抗体検査の評価研究によると、2019年1-3月(SARS-CoV-2が存在していない時期)の検体から陽性反応(=偽陽性)が検出されています(ただしクラボウの検査キットが含まれているかどうかは不明)。

https://www.mhlw.go.jp/content/000637286.pdf

 

日本感染症学会

日本感染症学会でも抗体検査キットの性能評価を行い、結果を報告しています。

http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/2019ncov_kits_0520.pdf

感度・特異度ともにキット間の性能の差が大きいことが明らかになりました。

また「抗体保有率が低い(感染者数が少ない)我が国のような場合は、使用するキットによっては真の抗体保有率より高い値が示される(偽陰性)可能性がある」と忠告しています。

現在のところ抗体検査はCOVID-19の診断には使えず、疫学調査において有用である可能性があると結論づけています。

 

ソフトバンクグループが実施した抗体検査

ソフトバンクグループが全国44,000人あまりを対象にした抗体検査の結果が6月9日に公表されました。

検査キットの精度評価も行われ、概ね問題ないレベルであったと報告されています。

医療従事者(1.79%)のうち、受付・事務(2.0%)や医師(1.9%)、看護師(1.7%)と比較して歯科助手(0.9%)や歯科医師(0.7%)の陽性率が有意に低かったとのことでした。

この調査ではその理由までは分かりませんが、事前のスクリーニングを含めた患者層や患者数の違い、行っている感染対策、診療の縮小による影響などが考えられるでしょう。

ただ一般集団(と同等とまで言えるかどうか分からないソフトバンクグループ・関連企業の社員)の陽性率(0.23%)よりは高いことには注意が必要です。

また、医療機関の内訳が公表されていません。個人的には患者層がほぼ同じであろう一般開業医(特に内科・耳鼻科)のデータとの比較があれば、と思いました。

このように、疫学調査で用いる場合、それなりに参考となるデータが得られます。

 

パルコ従業員

名古屋のパルコ従業員がSARS-CoV-2に感染した事例では、診断目的に抗体検査が行われていました。

6月3日   発熱などの症状が出て抗体検査を受けたが陰性

6月4日   解熱

6月5〜7日  出勤

6月7日   味覚障害、嗅覚障害

6月9日   医療機関を受診

6月10日    PCR陽性

 

国立感染症研究所によると、SARS-CoV-2に感染した場合、抗体検査は発症数日までは偽陰性、発症数日でも偽陰性が多く、1週間ほど経過すると陽性となるそうです。

 

なぜ発症初日に抗体検査を行ったのか意味不明ですが、ご覧の通り抗体検査が陰性だからと言って感染していないことの証明にはならないことが分かると思います。

繰り返しになりますが、抗体検査が陰性であるということは、今後SARS-CoV-2に感染することができる(稀にこの方のように感染初期である)という意味でしかありません。

このように、個人レベルで検査をしても、ほとんど意味はありません。 

 

歯科医院で抗体検査を行う問題点

上記の抗体検査の問題点を患者に十分に説明したとしても、まだ問題があります。

現在、日本国内で薬機法における体外診断用医薬品としてPMDA(医薬品医療機器総合機構)の承認を得た抗体検査キットはありません

https://www.pmda.go.jp/about-pmda/news-release/0012.html#2

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00132.html

 

あくまで日本国内では「研究用試薬」として流通、使用が許されており、クラボウの検査キットの添付文書にも、そのように記載されています。

https://www.kurabo.co.jp/bio/support/catalogDownload.php?f=232&file_num=1

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ところがCiの通販サイトでは、研究用試薬であるという記載がありません。

雑誌カタログには記載があるのでしょうか?

もし購入前に検査用試薬であることが分からない販売の仕方なのであれば、問題があるのではないかと思います。

 

もし購入した歯科医院が“臨床研究として”抗体検査を行うときは、①被検者への説明と同意、②研究計画書の提出、③倫理審査委員会の承認、が必要だと考えられます(対象がスタッフだけだとしても)。

https://ccs.ncgm.go.jp/110/index.html

 

検査を希望する人を被検者とすると、無作為抽出ではなくなり母集団を反映するサンプルとは言えなくなりますが、どのようにサンプリングするのでしょうか?

被検者から費用を受け取ることが適切なのかどうか、も議論するべきでしょう。

そして何より、倫理審査を通していない場合、ヘルシンキ宣言に反するのではないでしょうか?

 

自由診療だったら何でもいいのでしょうか?

 

まとめ

SARS-CoV-2に対する抗体検査は、現在のところ個人レベルでは有意義な検査とは言えません。

そしてクラボウの検査キットは信頼性に問題があります。(おそらくそのせいで売れずに在庫がだぶついているという噂も…)

現在日本では、検査キットは研究用としてのみ認可されており、使用に際しては研究倫理的課題をクリアする必要があります。

 

Ciは何のために、そして誰のために、抗体検査キットを販売しているのでしょう?

ええ、私には分かりません。

 

本ブログをお読みの皆様方におかれましては、決して購入なさらないよう、お気をつけくださいませ。

 

続報はこちら↓ (Ci に直接問い合わせをしました)