歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

マスクについて エアロゾルシリーズ⑦

前回はバイオエアロゾルの発生を抑制または減らす方法について解説いたしました。

 

とは言え、バイオエアロゾルの発生をゼロにすることは出来ませんので、マスクを装着して呼吸器を保護する必要があります。

 

マスクの機能について

  • 米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の認定を受けたサージカルマスクは、BFE/PFE(細菌/粒子の ろ過効率)は95%以上である94)

サージカルマスクの品質はASTM(American Society of Testing and Material)という米国の国際標準化・規格評価団体によって規格が定められています。

 

f:id:masaomikono:20200503215958p:plain

レベル2、3のものが医療現場では求められます。

日本にはサージカルマスクの規格はありません。

詳細はこちらの記事をご確認ください。

 

  • バイオエアロゾルに対するサージカルマスクの有効性に関する研究では、ろ過率は72.6%から2.2%までと様々であった121)

ほとんどザルのようなサージカルマスクまであるのですね…

  • 微粒子を用いたマスクの保護機能を調べた実験研究では、N95マスクでは9%の粒子の侵入を許したのに対し、サージカルマスクは22~35%であった122)

実験環境レベルではN95マスクとサージカルマスクの機能差は明らかです。

 

N95マスクとサージカルマスクに関する臨床研究

  • 歯科におけるウイルスに対するマスクの有効性に関する臨床研究は行われていない78)

 

残念ながら、歯科医療を対象とした比較研究はありません。

医科領域の研究

  • 救急科、小児科などの看護師において、インフルエンザや他のウイルス(アデノウイルスやRSウイルス、パラインフルエンザエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ライノウイルス、エンテロウイルス、コロナウイルス)に対しても、N95マスクとサージカルマスクの有効性に有意差なし123)

この研究では、N95マスクのフィットテストに合格できなかった看護師は研究から除外されていました。

またバイオエアロゾルを発生させる処置(挿管や気管支鏡検査など)でも、結核が疑われない限り、サージカルマスク群はそのままサージカルマスクを使用し続けていました

この研究の著者らは、「あらゆる呼吸器感染症関連ウイルスの感染率とマスクの種類には関連がないように思われる」と結論づけています。

一方で、「挿管や気管支鏡検査のようなバイオエアロゾル発生のリスクが高い場合など、N95マスクの使用が賢明であると考えられる場合には、この結果を一般化すべきではありません」ともしています。

  • N95マスクとサージカルマスクの呼吸器感染症に対する予防効果を比較した臨床研究では有意差なし124)
  • 2009年のH1N1パンデミックの際、香港のすべての公立病院ではN95マスクではなくサージカルマスクを使用したが、患者と接触した医療従事者と接触していない医療従事者との間で感染率に有意差がなかった125)
  • 日常的に職場で呼吸器疾患にさらされている医療従事者において、インフルエンザに対するN95 マスクとサージカルマスクの有効性に有意差なし126)

呼吸器感染症が対象ですが、いずれも有意差がなかったと報告されています。

 

このように、実臨床レベルではN95マスクとサージカルマスクの機能差(アウトカムを感染症の発症としている点に注意)はあまりないように考えられます。

 

SARS-CoV-2 の場合 

  • COVID-19 とは思われていなかった患者の治療をした医療従事者41人に関する研究127)
    85% (35/41人) がバイオエアロゾルが発生する処置でもサージカルマスクを着用していたにもかかわらず、誰も SARS-CoV-2 に感染しなかった

退院時のスクリーニング検査で COVID-19 と診断された患者の治療にサージカルマスクで対応していても、誰も感染しなかったとする報告です。

サンプルが41人と少数であるものの、示唆的な報告ではあります。

 

マスク使用・選択時の注意点

  • サージカルマスクが濡れると、その濾過効率が低下する10)

濡れたら交換しましょう。

  • 排気弁付きのマスク(写真)は飛沫から保護されず、微生物がバルブを介して出入りするため歯科医療現場で着用すべきでない78) 

f:id:masaomikono:20200619151037j:plain

各マスクの添付文書でご確認ください。

  • マスクの有効性は、適切な使用方法に強く依存する128)

特にN95マスクはフィットテスト、シールチェックが必須です。

フィットテストの動画はこちら↓


シールチェックの動画はこちら↓


 

まとめ

実験レベルではサージカルマスクとN95マスクの機能の差は明らかですが、実臨床レベルではほとんど差がない、とする報告がほとんどです。

これはマスク以外の部分による影響も考えられますが、逆に言うと、マスク以外の部分の感染対策の重要性を示唆しています。

また各種ガイドラインでバイオエアロゾルが発生する処置ではN95マスクを使用するよう推奨されておりますが、N95マスクの使用を支持する報告はありません。

しかしサージカルマスクで安全である、とする根拠がない中で、拡大的な声明を出すことは仕方のないことだとも思います。

バイオエアロゾルが発生する歯科診療でどちらのマスクを使用するべきか、答えはありませんが、N95マスクでなければいけない、とまでは言えそうもありません。

もちろんサージカルマスクで安全だ、と言うこともできません。拡大解釈にはご注意ください。

 

ただ、正しい方法で使用しないとマスクは機能しません。

引用した文献では(ほとんど)N95マスクの使用前にフィットテスト、シールチェックを行っていることが記載されています。

つまり実臨床ではサージカルマスクとフィットテスト、シールチェックを完了したN95マスクとがほぼ同等であったわけです。

フィットテスト、シールチェックを行わないN95マスクは、サージカルマスクよりも劣る可能性があります。

N95マスク使用に際しては添付した動画を参照し、必ずフィットテスト、シールチェックを行ってください。

 

備考

個別具体的なご質問やお問い合わせにつきましては、以下のメールアドレスまたはFBのメッセンジャーからお願いします。

masaomikono*gmail.com (*を@にしてください)

 

参考文献

10. Kong WG. MMWR Recomm Rep. 2003; 52(RR-17): 1-61.

78. C.M.C Volgenant. Oral Diseases, 2020; 00: 1-10.  doi: 10.1111/ODI.13408

94. N. Raghunath. BMRJ, 2016; 14: 1-8.

121. Wake D. J Aerosol Sci 1997; 28: 1311-1329.

122. Steinle S. Int J Hyg Environ Health, 2018; 221: 977-984.

123. Loeb M. JAMA, 2009; 302: 1865-1871.

124. MacIntyre CR. Influenza Other Resp Viruses, 2011; 5: 170-179.

125. Seto WH. Clin Infect Dis, 2011; 53: 280-283.

126. Lewis J. R. JAMA, 2019; 322: 824-833.

127. Ng K. Ann Intern Med, 2020; doi. org/10.7326/L20-0175

128. Noti, J. Clin Infect Dis, 2012; 54: 1569-1577.