歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

結局空気感染するの?しないの? WHO SARS-CoV-2の感染様式に関する情報

7月9日にWHOからSARS-CoV-2の感染様式に関する情報が更新され、発表されました。

 

https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/transmission-of-sars-cov-2-implications-for-infection-prevention-precautions

 

これは、世界中の200人を超える科学者が共同で、WHOに対して空気感染の可能性を考えるべきだ、とする声明を発表したことを受けたものです。

 

その声明についてはこちらをご参照ください ↓

masaomikono-sub1.hateblo.jp

 

空気感染というか、それ「3密」のことでは?と思う内容でした。

(正直、今さら感は否めませんでした)

 

早速日本国内の報道でも「WHO 空気感染の可能性」との見出しで報道している様子が見られます。

news.yahoo.co.jp

 

とにかくWHOの発表の内容を見てみると、

  1. 感染様式について
  2. どのように人から人へ感染するのか
  3. 感染予防について

の3つに大別されていました。

主に歯科に関係するであろう部分を中心に抜粋し、解説を加えます。

 

感染様式について

接触感染と飛沫感染

SARS-CoV-2の感染は、感染者の咳やくしゃみ、会話、歌などで排出される唾液や呼吸器分泌物などの感染分泌物や、その飛沫を介して、感染者との直接、間接、または密接な接触によって起こる。

これは従来と変わりありません。

 

呼吸器から出る飛沫は直径が5-10μm以上で、5μm未満の飛沫は飛沫核またはエアロゾルと呼ばれます

(Respiratory droplets are >5-10 μm in diameter whereas droplets <5μm in diameter are referred to as droplet nuclei or aerosols.)

おお、そうきましたか。

 

WHOはエアロゾルを飛沫核と同等のもの、と定義した(?)のでしょう。

とりあえずこの文書ではそう解釈して良いと思われます。

これ以上「WHOが空気感染を認めた!」とか短絡的な報道が出ないといいのですが...。

 

ただこれまでの論文はもちろん、今後出てくる論文が全てこの定義に従うわけではないと考えられますから、これまで通り定義の確認から入ることをお勧めします。

 

また飛沫〜飛沫核(エアロゾル)も飛沫感染〜空気感染も、元々くっきり分けられるものではなく、シームレスな概念です。くっきり分けられているのは対策の方です。

 

飛沫感染は、呼吸器症状(咳やくしゃみなど)のある感染者や、会話や歌などをしている感染者と密接に(1m以内)接触した場合に起こり、その際にウイルスを含む飛沫が口や鼻、目に到達して感染する。

これも従来通りです。

 

空気感染(airborne transmission)

空気感染とは、空気中に浮遊しても感染力を維持する飛沫核(エアロゾル)が長距離・時間をかけて拡散することで感染症が広がることと定義されている。

(Airborne transmission is defined as the spread of an infectious agent caused by the dissemination of droplet nuclei (aerosols) that remain infectious when suspended in air over long distances and time.)

airborne transmission は日本語で「空気感染」と訳します。

前述したWHOの「エアロゾル」の定義を踏まえれば、辻褄は合っています。

 

SARS-CoV-2の空気感染は、エアロゾルを発生させる医療処置を行う場合、発生する可能性がある。

繰り返しになりますが、WHOの「エアロゾル」の定義に従えば空気感染が発生する可能性がある、と言うことはできます。

 

その一方で、このように記載されています。

現在までのところ、エアロゾル経路による SARS-CoV-2 の感染は実証されていない。さらなる研究が必要である。

 

また感染が成立するためのウイルス量、エアロゾル(<5μmの微粒子として)内に存在するウイルスが感染性を有しているのかは分かっていません。

 

ちなみに

f:id:masaomikono:20200712011000j:plain

画像はお借りしました

この写真に写っている”微粒子”は、WHOの言うところのエアロゾルではありません。

なぜなら、WHOの言うエアロゾルは<5μm未満の粒子ですから目に見えません。

見えている粒子は飛沫で、エアロゾルは見えない、ということになります。

 

「3密」に関する指摘

屋内の混雑した空間に関連したアウトブレイクの報告がいくつかある

合唱やレストラン、ジムにおける、飛沫感染やエアロゾル感染 (aerosol transmission) の可能性が示唆されている

ここへ来て「エアロゾル感染」という言葉が出てきました。

空気感染ではなかったのでしょうか...??

いや空気感染も「ん?」と思わなくもないのですが...。

 

屋内の混雑した空間や換気が不十分な空間などで、感染者と長時間一緒にいる場合の近距離のエアロゾル感染 (short-range aerosol transmission) を否定することはできない

「エアロゾル感染」と言っていいのかはともかく、「3密」の環境がハイリスクであることは確かです。

日本が3月1日に到達していた考察に、ようやく追いついたようです。

 

接触感染

感染者から排出された分泌物や飛沫は、環境表面を汚染することがある。

したがって、身近な環境表面(例えば聴診器や体温計)に触れた後、口や鼻または目に触れることによって間接的に感染が起こる可能性がある。

従来通りです。

 

SARS-CoV-2による環境表面汚染と、そこでウイルスが生存(活性を維持)することについては証拠があるが、接触感染を証明したとする報告はない。

 

汚染された環境表面への接触は、感染者との密接な接触と同時に発生していることが多く、飛沫感染と接触感染とを区別することは困難である。

 

感染者周辺の環境表面の汚染に関する証拠や、他のコロナウイルスや呼吸器関連ウイルスが接触感染する可能性があることを考えると、SARS-CoV-2にも接触感染があると考えられる。

Lancetにも、病院では接触感染対策は重要だが、市中における感染対策としてはあまり寄与しないのではないか、とするComment が掲載されました。

https://www.thelancet.com/pdfs/journals/laninf/PIIS1473-3099(20)30561-2.pdf

 

従って、病院では引き続き接触感染予防策は継続する必要がある、ということに変わりありません。

 

どのように人から人へ感染するのか

感染者がいつSARS-CoV-2 を感染させるかを知ることは重要である。

ハイリスク患者のスクリーニングが必要な状況(感染が拡大している状況)では有用な情報となりえます。

 

SARS-CoV-2 の感染は、主に症状のある患者との密接な接触を介して伝播するようである。

軽症から中等症の患者からは発症後8〜9日まで、重症患者からはそれ以上の期間ウイルスが検出される。

症状のある方(スタッフ)は家にいるように勧める根拠となっている情報です。

 

地域社会における真の無症状者率はまだ不明である。

無症状者の割合は、高齢者では基礎疾患の有病率が高く重症化しやすいことや、子どもは臨床症状を示す可能性が低いことを示す研究があるため、年齢によって異なる可能性が高い。

 ダイヤモンドプリンセス号のデータでは、無症状者率はおよそ50%と報告されています。

www.niid.go.jp

 

無症状者からも感染することがあるが、どの程度感染するかは完全には解明されておらず、さらなる研究が急務となっている。 

無症状者を全例拾えているわけではありませんから、実態を明らかにすることは困難です。 

 

感染予防について

感染の連鎖を断ち切るためには、感染者との密接な接触を制限することが重要である

感染対策の基本中の基本、感染経路の遮断です。

 

感染予防は、疑わしい症例をできるだけ早く特定し、検査し、感染症例を隔離することで達成される。

濃厚接触者を特定し、隔離すること(=クラスター対策)で感染拡大を制限し、感染の連鎖を断ち切ることができるようにすることが非常に重要である。

これは日本が初めから行っていたことですね。当初は検査体制がやや不足していましたが、現在はそれも解消しています。

 

マスクは重要であるが、頻繁な手指衛生や身体的距離を置くこと、咳エチケット、環境表面の消毒を含む感染対策の一環である。

何か一つにこだわるのではなく、感染制御の輪が切れないようにしましょう。

 

感染制御の輪については、以下の記事を参照してください。

(記事中のミニテスト、ぜひチャレンジしてみてください。感染制御の輪が切れているかどうかが分かります。)

www.masaomikono.com 

 

屋内の混雑した集会をできるだけ避け、閉鎖的な環境下でも良好な換気量を確保する。

要するに「3密」回避です。

日本にとっては目新しいものではありませんが、この声明の中では重要な事項です。

 

WHOは、長期療養施設を含む医療施設内では、COVID-19患者をケアする際には飛沫感染予防策と接触感染予防策を行うこと、エアロゾルを発生処置を行う際は空気感染予防策を引き続き推奨する

これも従来と変わりありません。


 

まとめ

「3密」がハイリスクである、という情報が、WHOによって世界中に提供されました。

この情報が有用であることは、これまでの日本が証明しています。

世界中に広がるといいなと思っています。

 

結局日本としては、これまでの対策を変えるほどのインパクトはありませんでした。

歯科医療としても同様です。

 

個人的には「3密」という限定的な環境下でのみ発生する感染様式を単に「空気感染」と表現していいのか疑問が残ります(陰圧室が必要とはなっていない)し、「エアロゾル感染」という用語が定義されずに使用されていることは混乱を招き、後々に禍根を残すのではないか、と危惧しています。

 

歯科医院においてはこれまで通り、密集を避け、適宜換気を行う対応を継続すれば良いでしょう。