8月3日にWHOの暫定ガイダンスが発表されました。
CDCのガイドラインやADAのガイダンス等、これまでに発表されてきたものと繰り返しになる部分も多いですが、順次解説をいたします。
忙しい方は
- Ventilation in oral health care settings
- ロイターの記事
- まとめ
だけでも読んでください。
- Introduntion
- Transmission of COVID-19 in oral health care settings
- Containment of the spread of SARS-CoV-2 in oral health settings
- Screening and triaging of patients
- Infection prevention and control pre-treatment in oral health care settings
- Ventilation in oral health care settings
- Protection of oral health care personnel and patients during treatment
- うがい
- Cleaning and disinfection procedures in between patients
- ロイターの記事
- まとめ
Introduntion
- 本ガイダンスは、COVID-19の状況下においても必要不可欠な歯科医療に関する具体的なニーズと考慮すべき事項に対処することを目的としている。
- COVID-19パンデミックの間は、予防とセルフケアが重要事項である。
Transmission of COVID-19 in oral health care settings
飛沫、飛沫核、エアロゾルについて
- SARS-CoV-2の感染は、唾液や呼吸器分泌物、直径が 5~10μm を超える飛沫を介して、感染者との直接的、間接的、密接な接触によって起こる。
- 直径 5μm 以下の液滴は、飛沫核またはエアロゾルと呼ばれている。
WHOの定義としては「直径5μm以下の液滴は、飛沫核またはエアロゾル」となっています。
WHO以外の機関の文書では、この定義でない場合もありますのでご注意ください。
詳しくはこちらのブログを参考にしてください。
感染経路について
歯科医療の現場での感染経路は主に以下の3つ
- 咳やくしゃみで発生した飛沫の吸入による直接感染
- 目、鼻、口腔粘膜などの粘膜への曝露による直接感染
- 汚染された表面を介した接触感染
従来通りです。
エアロゾル発生手技について
エアロゾル生成手技は、世界中の歯科医療環境で広く行われている。
本ガイダンスでは、エアロゾル生成手技として以下のようなものが挙げられています。
- スリーウェイシリンジなどの噴霧発生装置を使用する処置
- 超音波スケーラーを用いた処置
- ハンドピースを用いた処置
- 直接修復および間接修復とそれらの研磨
- クラウン・ブリッジの装着
- 機械的歯内療法(Ni-Tiファイル等)
- 外科処置およびインプラント治療
ほとんどですね。
空気感染
エアロゾル発生手技を実施した場合、空気感染 (airborne infection) のリスクを排除することはできない。
WHOの定義に従えば、エアロゾルは <5μm未満の粒子であり、airborne infection が成立する、という理屈は成り立ちます。
結核や麻疹、風疹で見られるような感染様式である空気感染とは異なり、”3密”条件でのみ発生しうる感染様式である”(近距離での)空気感染”と認識すれば良いと思います。
歯科医療従事者について
- 長時間にわたって患者の顔の近くで作業を行う
- 顔を見ながらのコミュニケーションが必要であり、唾液、血液、その他の体液に頻繁にさらされ、鋭利な器具を扱う必要がある
- その結果、SARS-CoV-2 に感染したり、患者にうつすリスクが高くなる
普通の生活に比べたらもちろん高くなるでしょう。
感染するリスクは手指衛生や手洗い、”エアロゾル”対策で軽減できます。
うつすリスクもまた、手指衛生や環境表面の消毒、ゾーニングで軽減できます。
Containment of the spread of SARS-CoV-2 in oral health settings
診療制限について
- 必須ではない口腔保健診療(検診やクリーニング、予防ケア等)は、コミュニティの感染率が十分に減少するまで、あるいは国・地方の勧告に従って、遅らせるべきである
- これは審美歯科治療についても同様である
検診などが「必須ではない」かどうかはさておき、感染リスクを上回る歯科的ベネフィットがない(患者による)場合、と読み替えればいいかと思います。
現在(2020年8月12日)の日本においてはほとんどの地域で当てはまらないでしょう。
しかし口腔機能の温存、激しい痛みの管理、または生活の質の確保のために不可欠な緊急の歯科治療は行われるべきである
従来通りです。
Screening and triaging of patients
(中略)
Infection prevention and control pre-treatment in oral health care settings
マスクについて
- すべての歯科医療従事者は、飲食時を除き、シフト全体を通して、サージカルマスクを継続的に着用すべきである
- 飛沫感染予防策や接触感染予防策が必要な患者の治療をした後は、マスクを交換すべきである
いわゆるユニバーサルマスクを提唱しています。
また、エアロゾル発生手技を行った場合は特に、マスクを交換するよう求めています。
マスク等のPPEの供給が落ち着いてきたので通常の運用に戻すよう勧告しています。
手指衛生について
すべての歯科医療従事者は、WHOの「5つの瞬間」に従って手指衛生を行うべきである
従来通りです。
患者さんに対して
- 患者さんにも、到着時および訪問時には手指衛生の実践をお願いする
- 歯科医院への到着時から治療開始の瞬間まで、患者にはマスクを着用することが推奨される
- 待合室での患者数を減らすために予約の間隔を確保し、患者同士が少なくとも1メートルの距離を保てるようにする
- 介助が必要な場合を除き同伴は避けてもらう
Ventilation in oral health care settings
- 歯科医療機関での適切な換気は、閉鎖された環境での感染リスクを低減させる
- 換気の種類(機械的または自然換気)に応じて、換気と気流を増加させる
- 1時間あたりの空気交換率(=部屋の空気が全て入れ替わること)は 6〜12 回が望ましい
- 分割空調や再循環装置の使用を避け、ろ過システムの設置を検討する
ここまでは従来から言われてきたことです。
次のようなアプローチがある
- 換気扇の設置
- whirlybirdsの設置
- HEPAフィルターの設置
whirybirdsとは
よく工場などで見かけますが、風を受けて回転することで排気効率が上昇するようです。
また動画をご覧いただければ明らかですが、外気を取り入れることで格段に排気効率が上昇しています。
構造上雨が降り込むことも少ないように思えます(素人目線)し、機械換気装置よりも安価でしょう。なかなか良さそうです。
Protection of oral health care personnel and patients during treatment
環境整備
- 治療エリア内のすべての作業面を整理整頓する
- 実施する処置に不可欠な器具や材料のみをセットする
汚染される表面積を減らす工夫は大切です。
歯科医療従事者を守る感染対策
- WHOの「5つの瞬間」の推奨事項に従い手指衛生プロトコルを厳密に遵守する
- 適切な個人用保護具(PPE)を使用するための訓練を受ける
- エアロゾル発生手技を実施する際には、フィットテスト済みのN95またはFFP2マスクの使用が推奨される
従来通りです。
うがい
SARS-CoV-2.5 を含む口腔内微生物の唾液負荷を軽減する目的で、処置開始前に、患者に 1%の過酸化水素または 0.2%のポビドンヨードで 20 秒間口をすすぐように指示する
アレルギーや妊婦等、注意してください。
パンデミック時の対応
(中略)
エアロゾル発生手技を行うとき
- 介助下(4ハンド)で行う
- 吸引とラバーダムの使用(可能な場合)
- 適切なPPEの使用(フィットテスト済みのN95またはFFP2マスク、またはそれ以上のもの)
- 空気感染を防ぐために十分な換気を行う
従来通りです。
Cleaning and disinfection procedures in between patients
- 患者ごとに環境表面の清掃と消毒を実施する
- ドアの取っ手や椅子、電話、受付机などの高頻度接触面は、有機物を除去するために洗剤を使って清掃した後に、消毒する
- 消毒には 70%アルコールまたは (0.05%〜)0.1%の次亜塩素酸ナトリウムを使用する
- すべての歯科用器具は、スポルディングの分類に従って滅菌または高水準消毒を行う
- 清掃・消毒を行うスタッフは、適切なPPEを着用する
従来通りです。
ロイターの記事
このガイダンスを受けてなのか分かりませんが、ロイターから以下のような記事が出ていました。
記事中には以下のような文章があります。
世界保健機関(WHO)は11日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が抑制されている地域で歯科医院が再開していることに伴い、空気中を漂う微粒子「エアロゾル」を介した新型コロナ感染から患者やスタッフを守る必要があるとの見解を示した。
ロイターの取材によるものなのか、会見でそう発言があったのか、ウラが取れないため、誰がどのような文脈(背景)で述べたものなのか分かりません。
ただいずれにしてもタイトルにある「定期歯科検診は先送りを」は「コミュニティの感染率が十分に減少するまで」と言う前提が抜け落ちている”釣り”タイトルです。
こんな事してでもアクセス数を稼げばいいのでしょうか?
迷惑系 YouTuber と大差ないように思います。
おまけ
「現時点で歯科医院の治療椅子から新型コロナに感染したというデータはない」と言う文章がありますが、データがないことは安全であることを意味しません。
データがない、はデータがない、以外の意味はありませんのでお気をつけください。
まとめ
WHOが言うところの”エアロゾル”による”空気感染”が生じる可能性については、まだはっきりしたことは分かっていません。
「生じない」ことを証明することは不可能なので、疫学的なアプローチで有意差がないことを証明することしかできないと思いますが、そうした研究が望まれます。
(アメリカなどの感染が蔓延した地域でなければできない研究かもしれません。)
個人的には、換気の項目、特に whirlybirds を知ることが出来て良かったなと思います。