8月12日、ADA(米国歯科医師会)からWHOの声明に対する反対声明が発表されました。
WHOの声明についてはこちら
内容
ADAは、COVID-19 蔓延防止のために特定の状況下で「日常的な」歯科治療を遅らせるようWHOが勧告していることに、敬意を表しつつも強く反対します。
「特定の状況下」とは、WHOの言い分では「コミュニティの感染率が十分に減少するまで」という状況のことです。
何をもって十分とするかは、WHOとしては「国・地方の勧告」を基準とするよう勧告しています。ここも混乱を招く点かもしれませんが、国・地方によって医療資源やアクセスなどに大きな隔たりがありますから、一律の基準を設けることは不可能でしょう。
アメリカやブラジル、インドなどでは毎日数万単位で患者数が増加していますから、ADAが「コミュニティの感染率が十分に減少」していない国として自国が名指しされていると考えても無理はありません。
口腔内の健康は全身の健康に不可欠です。
歯科治療は、全身の健康に影響を及ぼす可能性のある口腔疾患を評価・診断・予防・治療する役割を担っているため、不可欠な医療です。
これは全くその通りでしょう。この点は Before コロナから何も変わっていません。
米国で COVID-19 症例が増加し始めた3月に、ADA は歯科医師に対し、この病気を理解し患者や歯科医療従事者、コミュニティへの影響を検討するために、緊急な治療以外のすべての治療を延期するよう呼びかけた、と Gehani 博士は付け加えた。
ADAの暫定ガイダンス等でそう呼びかけていました。
その後、ADAとCDCは、COVID-19に関連した歯科医療従事者向けの暫定ガイダンスを発表しました。
ADAのガイダンスでは、歯科医療従事者に対して利用可能な最高レベルのPPE、(マスク、ゴーグル、フェイスシールド)の使用を求めています。
また、可能な限りラバーダムと高速吸引装置を使用し、超音波スケーリングではなく手でスケーリングを行い、エアロゾルを最小化することを求めています。
Gehani博士は、「ここ数ヶ月の間に何百万人もの患者が安全に歯科医院を訪れ、あらゆる歯科サービスを受けています。適切なPPEがあれば、世界的なパンデミックやその他の災害時にも、歯科医療は継続して提供されるべきである。」と結論づけています。
つまりADAは、これまで採用してきた感染対策を行えばパンデミック下であっても歯科治療を提供することは可能だ、と主張しています。
ポイントは「適切なPPEがあれば」という前提の上であれば継続するべきだ、という点です。
確かに以前は「適切なPPEがなかった」ため、アメリカ国内では歯科医療を制限するよう要請されていました。
PPEの供給が安定しているのであれば、この主張は正しいと思われます。
ADAとWHO
ADAの声明は当然、アメリカ国内に向けたものです。
一方、WHOの声明は、アメリカを含む全世界に向けたものです。
おそらくPPEの供給が安定していない国は、特に発展途上国を中心に数多くあるのでしょう。そうした国にとっては、WHOの声明は妥当なのかもしれません。
また感染者数が減少している、または増加が緩やかな国もあります。そうした国にとっては、WHOの声明は「ああ、そういう国もあるんだな、大変だな」と聞こえるでしょう。
「適切なPPE」の供給が安定している(であろう)一方で感染者数が増加しているという相反する特殊な状況に置かれているアメリカが、WHOの声明に合致しないことは明らかです。
従ってADAが主張すべきは「WHOの声明に反対する!」ではなく「WHOの声明はアメリカには当てはまらない!」だと個人的には思います。
日本
諸外国の話は置いておいて、大切なのは日本です。
さて、日本はPPEの供給はまずまず、といったところでしょうか。
感染者数の増加の程度も不気味ではありつつも緩やか、と評していいと思われます。
ただこれも地域により状況が異なります。例えば8月13日現在の沖縄は重症者を収容するベッド数が足りていません。こうした地域では、歯科医療に限らずある程度の移動制限をかけることは合理的な対策でしょう。
いずれにしても、地域の医療資源との兼ね合いを見ながら、というところですが、
そもそも日本の歯科医療体制は、今回のWHOの声明のお世話にならなければならないような水準にはない
と思います。
これはアメリカも同等で、先進国は個別に責任を持って対処すれば良いでしょう。
マスコミ
問題はマスコミ、報道です。
ロイターとは違い、「コロナ感染拡大地域では」という前提が書かれています。
もちろんそこを読み飛ばして「歯科医院は危ない」と短絡的に考えてしまう方も一定数いらっしゃるでしょうけど。。。
この記事の中には日本歯科医師会の意見として以下のような記載があります。
一方、日本歯科医師会では「国内の歯科医院では、感染予防策を強化してきている。健診であってもひとりひとり状況は異なり、受診が望ましいケースもあるため、かかりつけの歯科医と相談してもらいたい」
世界との比較や医療資源の充実さ、をもっとアピールしても良かったと思いますね。
例えば、
日本よりもずっと感染者数が多く、一方でマスクやグローブなどが不足している国はたくさんある。そうした国では歯の定期検診を見送ることも有効なのかもしれないが、日本の歯科医院は感染対策を強化できており、受診を控えることで健康を損ねる可能性もある。かかりつけの歯科医と相談してもらいたい。
ちょっと長いですかね...
まとめ
WHOの声明も、ADAの声明も、日本としては特に関知するものではないと思います。
問題は報道と患者さんの反応、そしてそれに対峙する歯科医療従事者が正しく情報を伝えられるか、信頼を得られているか、にあるのでしょう。