歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

ADA の自画自賛から始まる? 歯科医療の New Normal

さて、昨日は FOX ニュースで報道された、「米国歯科医師のコロナ陽性率は 1 %未満」であったという記事についてサブブログで解説いたしました。

masaomikono-sub1.hateblo.jp

 

今日はその記事中で紹介されていた、ADA のニュースリリースをご紹介します。

 

リリース概要

  1. 歯科医師の SARS-CoV-2 の感染率は 1 % 未満であり、他の医療従事者よりも低かった
  2. ADA や CDC のガイダンスが正しかったので、この結果をもたらしたと考えている
    歯科医療の New Normal ?
  3. 今後もデータベースによる追跡調査を行う予定である

 

リリース詳細

歯科医師は SARS-CoV-2 の感染リスクが高いとされているが、2020年6月に収集されたデータに基づく報告によると、全国の歯科医師のうち検査陽性であったのは 1 %未満だったことが判明した。

この結果は、米国の他の医療従事者をはるかに下回っている。

6月のデータなので、今ではもう少し(累積であれば)増えていると思われます。

 

99%の歯科医師は、治療に際して、スクリーニングや強化した感染管理手順を採用していた。

JADA が出版に先駆けてオンラインで公開したこの報告書は、米国の歯科医師の感染率と COVID-19 に関連した感染管理の実践を初めて大規模に収集し、公表したものである。

これまでよりも感染対策を強化している歯科医院がほとんど、ということが伺えます。

 

論文の執筆者であり、ADA Science and Research Institute and Health Policy Institute の最高経営責任者である Marcelo Araujo, D.D.S., M.S., Ph.D.は「これは歯科医師と患者にとって非常に良いニュースです。これは、これまで歯科医師が行っていたこと、すなわち感染対策の強化と患者・歯科医療従事者への安全性への配慮に関する意識向上がうまく機能していることを意味しています。」と述べている。

何が正解であるのか分からなかった状態で出した暫定ガイダンスが上手く機能したのは、確かにその通りだと思います。

ただ、個別に何がどの程度影響したのか、までは分かっていません。

とにかく、今後ガイダンスを見直す(足し算はともかく、特に何かを引き算する)ハードルは上がったと言えます。

ADA の暫定ガイダンスはこちら ↓

www.masaomikono.com

 

論文の著者であり、シカゴに拠点を置くADA Science and Research Institute and Health Policy Instituteの研究者でもある Dr. Araujo は、今後も歯科医師の感染率データを継続的に収集し、報告する予定であり、米国歯科衛生士協会との協力のもと、歯科衛生士も調査対象にしていると付け加えた。 

こうしたデータベース研究は期待したいです。日本でも出来たらいいとは思います。

そのうち歯科衛生士のデータも出てくるものと思われます。

もう半年くらい前だと思いますが、一部で、歯科衛生士が最も危険な職業だ、との不可思議な言説がありましたが、どのような結果が出てくるのでしょう。

 

この論文では、6 月に約 2,200 人の歯科医師に焦点を当てており、調査前 1 ヶ月間は 82 % の歯科医師が無症状であったこと、16.6 % の歯科医師が検査を受けたことが分かった。

検査を受けた歯科医師は、特定の地域に集中しているわけではなかった。

検査を受けていない人のうち、COVID-19の診断を受けたのは 1 %未満(0.32% )であった。

この結果を国内の歯科医師数や地理に関して重み付けした結果、推定有病率は
1 % 未満(0.9%)、誤差は 0.5 % であったと報告している。

アメリカの調査結果ですので、そのまま日本に当てはめることは出来ませんが、(ほとんど対策することを放棄して)あれだけ感染が拡大しているアメリカで 1 % 未満というのは、結構いい数字だと思います。

逆に日本でこれを証明しようとしても、そもそも全体の感染率が低いので難しいと思います。

 

Araujo 博士は

「SARS-CoV-2の感染に関連するリスクを理解することは、患者・歯科医療従事者の安全性を向上させる上で非常に重要です。

この研究は、どのような対策が有効なのか、という理解を一歩前進させました。

今回、米国内の歯科医師は ADA と CDC のガイダンスに従っていることが分かり、それが患者・歯科医療従事者の安全を可能な限り確保することに役立っていました。」

と述べています

99 % の歯科医師が実行した ADA と CDC のガイダンスが結果的に正しかったことを強調しています。

これは、今後もこのガイダンスが継続される見込みが大きいことを示しています。

 

3 月にニューヨークタイムズ紙は、米国労働省のデータベースである O*NET のデータに基づいて SARS-CoV-2 の感染リスクが最も高い職業の 1 つとして歯科医療従事者をリストアップしました。

これは、歯科医師と患者の距離が近いことや、多くの歯科処置では感染者のウイルス粒子を含むエアロゾルが発生することから、ウイルス感染が起こる可能性があると推測されていました。

O*NET ってどこかで聞いたな、と思いましたが、以前 プレジデントオンライン に掲載された歯科バッシング記事のソースとなったデータベースですね。

ブログにもしています。

詳細はこちら ↓ (こちらをお読みになってから次に進むと理解が深まります)

www.masaomikono.com

 

このブログでも指摘しましたが、O*NET そのものは米国政府機関のデータベースであり何の問題もないのですが、そのデータから Visual Capitalist の記者が作ったグラフを、適当に解釈して「感染リスクが高い」としたプレジデントオンラインの”記者の質”が問題の根元でした。

 

曝露リスクが高いだけで、感染リスクを評価したものではないことは、グラフを”普通に”見れば明らかです。

ADA の声明にも同じようなことが見て取れます。

 

今回の報告により、歯科医師の SARS-CoV-2 の感染率が極めて低いことから、 CDC と ADA の勧告が、感染を防ぐ上で有効であることを裏付けている。

曝露リスクが高いのは当然で、その曝露から感染しないようにとの勧告が”結果的に”正しかったことを強調しています。

繰り返し申し上げますが、あれだけ感染が拡大したアメリカで歯科医師の感染率が低い、ということは確かに素晴らしい結果だと思います。

今の ADA や CDC の暫定ガイダンスが正しかったんだ、とする主張は「今後もこのガイダンスを継続するぞ」という意思の表れでもあるように思えます。

今のガイダンスが、歯科医療の New Normal となるのでしょうか?

 

ADA のガイダンスでは、利用できる範囲で最高レベルのPPE、すなわちマスク、ゴーグル、フェイスシールドの着用を求めている。

また、ラバーダムの使用とバキュームの使用、超音波スケーラーではなく手用スケーラーを使用してエアロゾルを最小限に抑えることを求めている。

このように繰り返し「ガイダンスが良かったんだ!」と強調しています。

 

 

ADA のチーフエコノミストであり、ADA Health Policy Institute の副会長である Marko Vujicicic, Ph.D. は、

「歯科医療従事者は感染リスクが最も高い職業の一つに挙げられているが、他の医療従事者と比べて、感染率ははるかに低いという事実は偶然ではありません。

私たちは歯科医師の COVID-19 の発生率や、歯科医療に対するパンデミックの影響を引き続き追跡し、歯科医師や他の業界への情報提供に役立てたいと考えています」

と述べている。

この続報には期待しています。

 

まとめ

歯科医師の感染率が低くて良かった、のはその通りですが、このニュースリリースから、新時代の歯科医療のあり方(特に感染対策のあり方)、すなわち歯科医療の New Normal が見えてくるような気がします。

 

ADA がここまで暫定ガイダンスの正しさを強調している状況で、これまでのブログでも何度か言及している「(感染対策の合理的な)引き算」はどんどん難しくなると思います。

 

「持続可能な歯科保険医療の供給体制の維持・確立」のためには、多すぎてもダメ、少ないのはもっとダメ、”必要十分”な感染対策が望まれます。

その必要十分とはどこにあるのか、個人的には、研究への投資が必要な段階ではないかと思っています。

それがなければ我が国のガイドラインも、ADA のガイダンスに準拠したものになるでしょう(それで大丈夫ならいいのですが)。

 

つづき

ADA が診療報酬の増額を要求しています。

 

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