河野雅臣 歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

コロナ舌??????????

2021年1月28日、テレビ朝日系列各局で放送されている ANN ニュースで、『”コロナ舌”症状は...感染初期に異常』というテロップとともに、以下のような報道がなされました。

新型コロナが引き起こす身体の異常が次々発覚(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース

以下、記事からの引用です。

スペインの研究チームが感染初期の兆候として「コロナ舌」と呼ばれる異常が発生する事があるとした報告書をまとめました。
どんな症状なのでしょうか。

舌にできた大きな斑点。
これは、新型コロナウイルスによる体の異常だといいます。

確認されたのはスペイン。
世界各地で“コロナ舌”と報じられています。

スペインの研究チームが新型コロナウイルスの 304 人の感染者を調査すると、感染者の 4 人中 1 人が舌に異常を感じたといいます。
舌が腫れることもあり、歯形が付いてしまうほどです。
感染初期に起こる兆候で、味覚を失うといいます。 

 

「スペインの研究チームの報告書」がニュース映像中に紹介されており (0:58)、取り寄せて調べてみたところ、引用した記事の黒い太字の部分は誤り、また赤い太字の部分は誤りではないものの、視聴者を誤認させる恐れがあることが分かりました。

順次解説いたします。

 

スペインの研究チームの報告書はこちら

Prevalence of mucocutaneous manifestations in 666 patients with COVID-19 in a field hospital in Spain: oral and palmoplantar findings

 

誤り

スペインの研究チームが感染初期の兆候として「コロナ舌」と呼ばれる異常が発生する事があるとした

論文の中では「コロナ舌」に相当するであろう「corona tongue」「COVID tongue」などという表現はありませんでした。

まるでスペインの研究チームが「コロナ舌」と表現したかのような記事は誤りです。

 

新型コロナウイルスによる体の異常だ

この研究は「横断研究」と呼ばれるタイプの研究手法が取られています。

横断研究と生態学的研究 | 疫学用語の基礎知識

横断研究は因果関係(AとBは原因と結果である、という関係)を証明することはできません。

したがってこの論文では「新型コロナウイルス(原因)による体の異常だ(結果)」という結論には至りません。

筆者らもそんなことは言っていません。

ここの記事も誤りです。

 

新型コロナウイルスの 304 人の感染者を調査

論文では以下の部分が記事に該当すると考えられます。

A total of 666 patients with COVID-19 fulfilled the inclusion criteria: either positive real-time reverse-transcription polymerase chain reaction (RT-PCR) testing for SARS-CoV-2, or bilateral pneumonia. Mean age was 55.7 years; with a slight female predominance (58%). Notably, 47.1% were from Latin America.

Overall, 304 (45.7%) of our patients presented with one or more mucocutaneous manifestations.

調査の対象となったのは 304 人ではなく 666 人です。

304 人は 666 人のうち、皮膚や粘膜に病変が出た方の人数です。

誤りです。

母数を少なく報道してはいけませんねぇ。

 

感染者の4人中1人が舌に異常を感じた

皮膚や粘膜に病変が出た304人の内訳が記載されています。

Overall, 304 (45.7%) of our patients presented with one or more mucocutaneous manifestations. Oral cavity findings were seen in 78 cases (25.7%), ...

翻訳するとこんな感じ。

全体では 304 人 (45.7%)に 1 つ以上の病変が認められた。

口の中のでは 78 人 (25.7%) に病変が認められ、... 

 

皮膚や粘膜に病変があった304人のうちの 78 人=25.7 % に口の中の粘膜病変があった、と記載してあります。

全数は 666 人でしたから、78人は 11.7% ですね。

8.5 人に 1 人ですから、4 人に 1 人は誤りです。

 

また、口の中に病変があった、という記載ですので、「舌に異常を感じた」わけではないかもしれません。

では「舌に異常を感じた」患者さんはどれくらいいらっしゃったのか見てみましょう。

Oral cavity findings were seen in 78 cases (25.7%), including transient lingual papillitis (11.5%), glossitis with lateral indentations (6.6%) (Figure 1a), aphthous stomatitis (6.9%), glossitis with patchy depapillation (3.9%) (Figure 1b) and mucositis (3.9%). 

翻訳するとこんな感じ。

口の中には 78 人 (25.7%) に粘膜病変が認められた。
その内訳は、
・一過性の舌乳頭*1 (11.5%)
・舌側方のくぼみを伴う舌炎 (6.6%)(図1a:写真左)
・アフタ性口内炎 (6.9%)
・パッチ状の舌乳頭喪失を伴う舌炎 (3.9%)(図1b:写真右)
・粘膜炎 (3.9%)
であった。

f:id:masaomikono:20210130163030p:plain

 

舌の病変は3つでした。複数の症状が出ている方もいらっしゃいますし(それぞれの有病率を足して25.7%にならない)、アフタ性口内炎や粘膜炎*2が舌に出ることもありますので、舌の病変が出た具体的な人数までは分かりません。

全員が舌の病変を呈していた可能性もありますが、それでも最大でも 8 人に 1 人 は変わりありません。

「感染者の4人中1人が舌に異常を感じた」誤りです。

母数を少なくしちゃダメですよ、実態よりも多く見えてしまいます。

まさかそう見せたかったわけではありませんよね?

 

(舌が腫れる症状は)感染初期に起こる兆候

今回の研究は、2020年4月10日から25日までの間に軽症〜中等症のCOVID-19患者を調査した結果をまとめたものです。

もちろん調査した時、たまたま感染初期だった患者さんもいるでしょうが、この研究では病期を分類して調査をしてはいません。

したがって、(舌が腫れる症状は)感染初期に起こる、は誤りです。

 

(舌が腫れる症状が出ると)味覚を失う

味覚に関しては以下のような記載がありました。

Burning sensation was reported in 5.3% of patients, and taste disturbances (dysgeusia) were commonly associated.

翻訳するとこのような感じ。

口の中の灼熱感*3を訴えたのは5.3%の患者であり、味覚異常(味覚障害)を伴うことが多かった。

舌が腫れた方に味覚障害が出たわけではありません。

したがって、(舌が腫れる症状が出ると)味覚を失う、は誤りです。

 

誤解を与える恐れ

舌が腫れることもあり、歯形が付いてしまうほどです 

Fig. 1a (図1a:写真)の説明として、以下のような解説文が記載されていました。

f:id:masaomikono:20210130165812p:plain

Glossitis with lateral indentations and anterior transient lingual papillitis due to swelling of the tongue and friction with the teeth.

翻訳するとこんな感じ。

舌の腫れ と、歯との摩擦による、舌の側方のくぼみを伴う舌炎と、舌前方の一過性舌乳頭炎

この患者さんの舌の側方に歯の形と一致するくぼみがあったことは確かですが、これがコロナ感染後に出来たものなのか、前からあったのか、回復後にこのくぼみが改善したのか、という調査はされていません。

また、「腫れた」をどう評価したのかも不明です。腫れていない状態(通常時)との比較がなければ、1回診察しただけでは評価できません。

コロナ感染により舌が腫れ、歯のくぼみが出来た可能性は否定できませんが、この論文だけで結論づけることは不可能です。

したがって、記事で「舌が腫れることもあり、歯形がついてしまうほどです」という表現をすることは正確性を欠き、誤解を与えることになる恐れがあります。

 

おまけ

世界各地で“コロナ舌”と報じられています。

とありましたので、ちょっと調べてみました。

www.nbcnews.com

他には見つけられませんでした。

 

まとめ

「スペインの研究チームが論文を発表した事実」以外の記事はほぼ全て誤り、または誤解を招く恐れのあるひどいものでした。

テレビ朝日さん、こんな報道してていいんですか?*4

 

なお、本ブログは新型コロナウイルス感染症で舌に異常が出る”可能性”を否定するものではありません。

 

追記(歯科関係者向け)

Fig 1b. は地図状舌ですよね、おそらく。

この論文、コントロール群がありません。

パンデミックでコントロール群(非感染者)の診察をすることは接触機会の増加につながってしまい良くないですから、コントロール群の設定がないことは仕方ないと思いますが、一般的にどれくらいの有病率なのか、ちょっと調べてみました。

 

① 地図状舌のレビュー

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32119353/

② 地図状舌のレビュー

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31005233/

③ 地図状舌 188 例(!)の症例報告

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15719084/

 

レビューによると、地図状舌の疫学として以下のようなことが分かりました。

・有病率は 1~2.5%

・小児の有病率は 0.37% から 14.3%、小児期に好発

・最も有病率が高いのは 20~29 歳、約 39.4%

・男性よりも女性の方がわずかに多い傾向がある

 

今回の論文で報告された Fig 1b のような地図状舌を呈した患者が 304 人に占める割合は 3.9%でしたので、COVID-19 患者 666 人に占める割合は約 1.78% です。

 

あれ?ほとんど変わらなくね?

 

患者さんが「舌がおかしい!」と言って来院された場合の説明にお使いください。

 

その他、COVID-19 と口腔内病変に関する論文(仮説多し)↓

Oral mucosal lesions in a COVID-19 patient: New signs or secondary manifestations?

Increased odds ratio for COVID-19 in patients with recurrent aphthous stomatitis

Chikungunya fever and COVID-19: Oral ulcers are a common feature

Oral mucosal lesions in patients with SARS-CoV-2 infection. Report of four cases. Are they a true sign of COVID-19 disease?

COVID-19 - oral manifestations 

 

www.masaomikono.com

 

www.masaomikono.com

*1:舌乳頭:舌の表面の小さな突起状の構造。白っぽく見えるが、炎症などで喪失すると写真のように赤く見える

*2:舌炎という表記があるので舌以外の粘膜の炎症だと思いますが、大勢には影響がないのでまあいいとします。

*3:口の中の粘膜が焼けるような感じ

*4:ウソは池◯彰だけで十分です