河野雅臣 歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

歯科医院の換気について

以前、エアロゾルシリーズ⑧として換気について取り上げました。

 

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その後、いくつかの研究やガイダンスが発表されており、新しい知見も得られましたので、まとめてご紹介いたします。

 

サマリー

  1. 換気の良し悪しの基準として、1時間あたりに部屋の空気が全て入れ替わる回数を示す ACH(air change per hour:空気交換率)がある。 
  2. 歯科医院に求められる ACH の目安は 10〜12 とする推奨がある。
  3. 自然換気の ACH は気象条件等で大きく変動するが、推計する方法がある。機械換気は分かっていることが多い。
  4. 空気清浄機は換気の代替にはならないが、条件次第では ACH を増やすことが可能性がある。
  5. CO2センサーは有用とは言えない。

 

換気の方法

換気とは

屋外から新鮮な空気を取り入れ、屋内の汚染物質を含む可能性のある空気を除去すること

 

自然換気

  • 換気量は、窓などの開口部の大きさや気象条件に左右される
  • 室内と屋外の温度差が大きい場合(特に冬)は換気量が増加する

 

機械換気

  • 排気タイプと吸気タイプ、吸排気タイプがある
  • 診療室から待合室等に空気が移動しないような設計にするべきである

 

自然換気と機械換気の比較

  • 自然換気は周囲環境で ACH が大きく変動するが、機械換気は安定した ACH が得られる
  • 機械換気は理論値と実際の値が異なる可能性がある
  • 機械換気はメインテナンスが重要である
  • SDGsの観点から、必要以上の機械換気装置は推奨されない(電力を浪費する)

個人的には可能な限り自然換気を活用し(コスト面でも環境面でも)、必要最小限の機械換気装置を導入することが合理的だと思います。

 

換気による汚染物質の除去効果

  • ACH と汚染物質の除去効率に関する換算表は次の通り

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例えば 1ACH の換気をしている場合、1時間後に汚染物質のレベルが63%低下する。

歯科診療室での ACH の目安として 10~12 が提案されている。

 

ACHの計算

自然換気の場合

  • 影響を及ぼす因子が多く、信頼性の高い見積もりや測定が難しい
  • WHO が換気量の推計方法を提案している(以下)

換気量 [m^3/s] = k × 風速 [m/s]* × 最小開口面積 [m^2]

片面換気の場合 k = 0.05

両面換気の場合 k = 0.65

網戸がある場合 換気量 × 0.5

* 風速:建物から十分に離れた障害物のない場所での風速(≒天気予報の風速[m/s])

  • 換気量 [m^3/s] から ACH [times/hour] を求める変換式は以下の通り

ACH = 換気量 [m^3/s] × 3600 [s] ÷ 部屋の体積(m^3)

 

機械換気の場合

換気システムが1時間あたりに供給する換気量を部屋の体積で割る

あらかじめ理論値が分かっている場合もある

 

CO2モニタリング

CO2メーターは、換気が悪いことを示すことには向いているが、換気が良いことを示すには適していない

混雑した環境ではCO2メーターは有用

歯科医院のような人口密度が低い環境では有用ではない

 

換気を良くする方法

  • 自然換気を増やす
  • 待機時間を設ける
  • 冷暖房を併用し、暑いから/寒いからという理由で換気を減らさないようにする
  • 換気扇を常時ONにする
  • 機械換気(換気扇〜中央配管型まで)の導入
  • HEPAフィルター付き空気清浄機の併用(条件付き:後述)

 

暑いとき、寒いときの効率的な換気

  • 室内と屋外の気温差が大きいと換気量が増加するため、換気頻度や開けておく窓の大きさを減らすことができる
  • 暑い時は足元の窓を開けて部屋の冷たい空気と外気を混ぜ、寒い時は天井に近い窓を開けて部屋の暖かい空気と外気を混ぜることで不快感を軽減できる

これは簡単に使える方法だと思います

 

空気清浄機について

  • 空気清浄機は換気の代替にはならない
  • 換気が不十分な部屋では効果がありうるが、十分な換気が行われている部屋では効果が少ない
  • HEPAフィルターによる濾過機能が付いたものが最も効果的、UVを搭載したものも効果的
  • オゾンなどの化学物質を発生するものは避ける
  • 製造元が公表している CADR(clean air delivery rate:新鮮な空気の供給率;単位はCFM(cubic feet per minute)) *1と部屋の体積から ACH を推計できる。
    推計には、製造元が公表している CADRの50%を実際の効果とする。
    推計式は以下の通り。

ACH = 1.7 × CADR ÷ 部屋の体積(m^3) ÷ 2

  • 推計した ACH を既存の換気による ACH に加えることができる。

 

待機時間

各種ガイダンスで、換気に関するエビデンスをもとに、待機時間を設定する推奨がなされはじめています。

待機時間とは、エアロゾルが発生する処置をした患者の診療後、一定時間*2診療室に次の患者を入れない予防措置のことです。

(詳細は準備中です...しばしお待ちください。)

 

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まとめ(雑感)

自然換気をベースに、費用の安い機械換気を導入することで必要な ACH(日本では未設定?)が達成できるといいですね。

CO2のモニタリングは...休憩室や更衣室などでは有用かもしれません。

個人的に気にしているのは待機時間です。
これを現在の日本の歯科診療(特に保険診療)に実装するのは困難でしょう。
しかし世界各国で取り入れられるようになるとそうもいきませんね。某業界が嗅ぎつける前に何らかの反応はしておくべきでしょう。
詳細は現在まとめておりますので、しばしお待ちください。

 

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用語の解説

ACH:1時間あたりの空気交換率(回数)。換気の良し悪しの基準。

換気量[m^3/s]:1秒あたりの空気流量[m^3]。

CADR:1分あたりにフィルターを通る空気の流量[feet]。1 CADR ≒ 1.7 m^3/h。

 

参考文献

COVID-19 Practice Recovery - SDCEP

EMG: Role of ventilation in controlling SARS-CoV-2 transmission, 30 September 2020 - GOV.UK

EMG: Simple summary of ventilation actions to mitigate the risk of COVID-19, 1 October 2020 - GOV.UK

EMG: Potential application of air cleaning devices and personal decontamination to manage transmission of COVID-19, 4 November 2020 - GOV.UK

https://www.scottishdental.org/wp-content/uploads/2020/08/Ventillation-Final-Copy-1.pdf

Roadmap to improve and ensure good indoor ventilation in the context of COVID-19

Implications of COVID-19 for the safe management of general dental practice - a practical guide | FGDP

 

*1:国内製品にはほぼ表記されていない。日本の空気清浄機はナ◯イーだのジア◯ーノだのプラ◯マクラスターだの、非科学の方向に進化しています。

*2:ACH によって左右されますが、今のところ最短でも10分です。