河野雅臣 歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

今、小児の歯科診療で気をつけるべきこと

突然ですが、Multisystem Inflammatory Syndrome in Children (MIS-C) をご存知でしょうか?

日本語では小児多系統炎症性症候群と訳されます。

歯科関係者も頭の片隅に入れておいた方が良いと思いましたので、共有いたします。

(注:ブログ記事は共有していただいて結構ですが、「最後に」をお読みいただいてからご判断ください)

 

MIS-C

Information for Healthcare Providers about Multisystem Inflammatory Syndrome in Children (MIS-C) | CDC

CDC によると、

① 21 歳未満で発熱があり、炎症を示す検査所見*、2つ以上の臓器病変** を含む、重症で入院を要する

② 他の診断が考えにくく

③ SARS-CoV-2 陽性(PCR、抗原、抗体)または SARS-CoV- 2陽性(疑い含む)患者と 4 週以内に接触があった***

* 検査所見:CRP、赤沈、D-dimer の上昇

** 臓器病変:心血管系、腎臓、呼吸器、血液、消化器、皮膚粘膜、神経

*** 無症状者との接触もありうるため、必ずしも接触歴が分かるわけではない

を MIS-C の定義としています。

症状は多岐に渡り、重症例では時にショックを呈することもあるようです。

COVID-19 発症中よりも、回復後(2〜6 週後)に発症することが多い、という特徴があります。

疾患の臨床的・検査学的な特徴から、川崎病との類似性が指摘されています。

 

川崎病

小児に認められる全身性の血管炎であり、発熱や結膜充血、口腔粘膜病変(口唇の紅斑、イチゴ舌)、四肢末端の浮腫や紅斑、発疹、頸部リンパ節腫脹などを併発します。

検査所見としてはCRP、赤沈、D-dimer の上昇が認められます。

 

MIS-C の口腔内病変

MIS-C と診断された小児患者における、口腔内病変の有病率や特徴に関する報告があります。

Oral manifestations of COVID-2019-related multisystem inflammatory syndrome in children: a review of 47 pediatric patients

この論文によると、

① MIS-C 患者(47人)の平均年齢は 9.0 歳(±SD 5.0)、男女差なし

② 口腔内病変:口唇の紅斑や腫脹は 48.9%、イチゴ舌は 10.6%

③ 口腔内病変は全身の発疹(P=0.04)と結膜炎(P=0.02)と相関、咳(P=0.02)と逆相関、心疾患とは相関なし

とのことでした。

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イチゴ舌

イチゴ舌が生じる疾患として、前述の川崎病の他には猩紅熱(溶連菌感染症)が有名ですね。

日常の歯科診療ではあまりお目にかかることはないと思います。

ちなみに私は大学4年の時に溶連菌感染症にかかり、激しい嘔吐と高熱による脱水、関節痛、イチゴ舌を経験しました(辛かった...)。

 

前述の論文では、川崎病と比較するとイチゴ舌の有病率は低い傾向にあったとしていますが、一方で MIS-C がまだあまりよく分かっていなかった頃(2020年5月末まで)の観察記録であるため、過小評価の可能性もあると示唆しています。

また、既に MIS-C という診断で入院していた患者を対象としていますので、イチゴ舌等の口腔内病変が他臓器の症状より先行して出現するのかなど、詳しいことは分かっていません。

 

日本での動き

2021年3月12日、日本川崎病学会が「COVID-19 に続発する多系統炎症性症候群(MIS-C)の発生について」という文書を発表し、関係機関へ周知を図っています。

https://www.neurology-jp.org/news/pdf/news_20210317_01_01.pdf

また、2021年5月19日には日本小児科学会などが「小児 COVID-19 関連多系統炎症性症候群 (MIS-C/PIMS) 診療コンセンサスステートメント」を発表しています。

これらの資料は一度目を通していただくことをお勧めします。

ここでは(口腔)粘膜病変の頻度は 27-76% とされています。

また診断アルゴリズムが開発されています。

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日本の小児 COVID-19 患者数

日本小児科学会によると、現在の第4波での小児患者の割合は、やや増加傾向にあるようです。感染経路は家庭内感染が大部分を占める、とされています。

小児における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の現状と感染対策についての見解|公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY

 

歯科医院で気をつけるべきこと

診断アルゴリズムによれば、発熱が MIS-C の診断には必須となっています。

発熱患者のスクリーニングをしている歯科医院に受診する可能性は低いかもしれませんが、全ての症状が同時に出現するわけでもないでしょう。

COVID-19 患者数の増加と、それに伴う小児 COVID-19 患者数の増加により、MIS-C 症例も増えていくことが容易に予想されます。

従って、歯科医院で小児の口腔粘膜疾患、特に口唇の発赤や亀裂、イチゴ舌を確認した場合、専門機関へ紹介する必要があると考えています。

注意点として、口腔粘膜疾患があれば必ずしも COVID-19 というわけではありませんので鑑別診断が必要ですし、回復後、すなわち感染力がない状態で発症することが多いようですので、診察を断る必要はないでしょう。

なお、渉猟しえた限りですが、歯科関連学会からは特に声明は出ていないようです(2021年5月28日現在)。

 

最後に

前述した日本川崎病学会の声明では、以下のようなお願いがなされています。

この問題に関しては、欧米の報道以来、各報道機関、メディアも注目を続けております。
当該患者様の個人情報保護の観点と、報道内容によって、お子さんを持つ一般家庭に過度の不安を与えない様、現時点で、一般社会への積極的な広報は控えておりますので、その点ご理解いただける様お願いいたします。

一般の方への共有は慎重になさってください。よろしくお願いいたします。 

 

まとめ

歯科医院で口腔内病変が先行して出現した MIS-C 症例が報告された、といった事態が起こるのかは分かりません。まだ分からないことが多いからです。

逆に口腔内病変が先行することはほとんどないのかもしれません。従って知識を得ても、勉強しても、空振りになるかもしれません。

しかし、歯科医療従事者が MIS-C を知らなければ、分からないことすら分かっていないければ、病態の理解には繋がりません。

まずは知るところから始めましょう。 

 

おまけ

”コロナ舌”とは全く次元が違う、良いブログ記事になり、満足しています(笑) www.masaomikono.com  

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