河野雅臣 歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

米国歯科医師の COVID-19 罹患率 第2報

10月にアメリカ歯科医師会(ADA)の調査により、歯科医師のCOVID-19罹患率が 1 % 未満 であった、という報告がありました。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

それについては以下のブログをご参照ください。

www.masaomikono.com

 

その第2報が発表されましたので、ご案内いたします。 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

論文概要

方法

・2020年6月8日〜11月13日まで、web調査を実施

・米国で開業あるいは公衆衛生に従事している歯科医師が対象

・COVID-19と検査で診断された、あるいは検査はしていないが医師からCOVID-19の可能性があると伝えられた人をCOVID-19罹患とカウント

・PPEの使用状況も同時に調査

結果

・2,196名の歯科医師が回答

・年齢の中央値は52.6歳、59.2%が男性

・期間中の累積有病率は 2.6%

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・家族や患者以外の他人との接触がなかったと回答した歯科医師は 4.7%→1.2% と有意に減少

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・COVID-19患者あるいは疑い患者との接触は、期間中に 2,196 人の歯科医師で 875 回、そのうちの 430 回は患者

310人(35.4%)は期間中、過去1ヶ月に同僚が COVID-19 に感染していたと回答した

・感染源が特定できたのは 23 例のみ、歯科医院が感染源と推定されたのは2例

・N95 マスクと眼の保護具の使用率は 92.4%→88.0% へと有意に減少

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・マスクを患者ごとに交換する歯科医師は有意に増加

・COVID-19 の検査を受けたことがある歯科医師は、調査最終段階で 566 人(43.9%)

筆者らの考察

・各種論文で報告された、他の医療従事者の罹患率と比較すると、歯科医師の罹患率は低い

・CDC や ADA が推奨した感染予防策が有効だったと主張している

・自己申告による結果なので、想起バイアス、社会的望ましさバイアスがありうる

・PPE について、CDC ガイダンスに基づく質問をしているが、ガイダンス通りの使用方法をしているかどうかは不明

・無症状者は見逃されている可能性がある

・死亡・入院中の歯科医師は参加できていない

河野の考察

・web 調査であり、選択バイアスもある

・偽陽性、偽陰性もありうる

・筆者らも指摘している通り、やや過小評価になっている可能性がある

・こんな時こそ抗体検査を実施すればよかったのに...

・35.4% の歯科医師が、同僚が感染したと言っていることの詳細を知りたい

 

ADA の主張

ADA としては、暫定的に作成したガイダンスの正当性を主張したいようである。

N95 マスクの使用継続が重要であると強調していることからも、それが伺える。

 

歯科医院は安全と言えるか

他の医療従事者より罹患率が低いのは吉報であるが、「歯科医院は安全です」と言うためには、病院より安全、ではなく、一般と比較する必要があるだろう。

そこで、Our World in Data のサイトから、研究と同じ期間の COVID-19 患者数を抽出した。

Coronavirus (COVID-19) Cases - Statistics and Research - Our World in Data

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グラフはアメリカにおける、100 万人あたりの累積患者数を示している。

6月8日時点では 5,925.22 人であったが、11月13日には 32,749.9 人に達している。

( 32,749.9 - 5,925.22 ) ÷ 1,000,000 × 100% = 2.68%

であった。

歯科医師の罹患率は 2.6% であったので、0.08% 低い。国民全体との差はあまりなく、取り立てて安全とは言い難い(アメリカでは)。もちろん、危険とも言えない(アメリカでは)。

他人(家族・患者以外)との接触を制限している歯科医師はほとんどいない(4.7→1.2%)ようなので、国民全体との差がないことは、逆説的に歯科医療を通した感染が少ないということに...ならないか(笑)。接触の頻度や接触の様子などが不明ですから何とも言えません。

 

まとめ

少なくともニューヨークタイムスがかつて報道したような、歯科衛生士が最も危険だ、歯科医療従事者の感染リスクが高いんだ、は完全に否定できたと思います(たぶんこのために調査したんではないだろうか)。

日本ではプレジデントオンラインという低質でおなじみな雑誌が報じていました。

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ADAが、自分たちのガイダンスの正当性を主張していることは実に興味深く思っています。

つまり、今後もその方針を続けることを意味しているからです。今後の歯科における感染予防策はどうなっていくのでしょうか。

 

もうワクチン接種率が高くなっていますので無理な話ですが、出来れば抗体検査を広く実施してもらいたかったですね。
他の医療従事者はもちろん、一般住民との比較も確実にできますので。
そうすればもっと確かなことがわかったと思います。日本の歯科医院向けにすら販売されているくらいですから、検査キットも余っているでしょうし。

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