河野雅臣 歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

吉村さん、口腔とコロナ関連ニュースのシェアは計画的にオナシャス!

6月8日、朝日新聞デジタルから、以下のようなニュース記事が配信されました(リンクはyahoo!ニュース)。

 

記事概略は以下の通りです。

や唾液腺などの細胞にも新型コロナウイルスが直接感染していることを、米ノースカロライナ大などの研究チームが突き止めた。
口内でウイルスが増え、唾液を通じて感染を広げる可能性があるという。
専門家は会食など飲食の場での感染対策に一層の注意を呼びかける。

PCR検査に使う唾液の中にもウイルスが存在することはわかっていたが、口内の細胞に直接感染しているのかは不明だった。

や歯肉、唾液腺などの細胞に、ウイルスが細胞に侵入するのに使うたんぱく質「ACE2」や、「TMPRSS2」が存在していることを特定した。(→後述①)


新型コロナで亡くなった患者から提供された唾液腺や軽症患者の唾液を調べ、ウイルスが口内の細胞に感染し、増殖している様子を確認できたという。(→後述②)
ウイルス量の多い患者の唾液を、体外で培養したサル由来の細胞にふりかける実験で、ウイルスが細胞に感染、増殖したことを確認した。唾液が感染を広げることを証明できた。(→後述②)

 

チームの加藤貴史ノースカロライナ大研究員(呼吸器内科)は「考えられていた以上に口腔や唾液が重要な感染経路だとわかった。口腔で増えたウイルスが肺などに侵入し、重症化とどう関わるかも研究を進めていきたい」と話した。

論文は米科学誌ネイチャー・メディシン(https://doi.org/10.1038/s41591-021-01296-8)に掲載された。

 

この記事を大阪府吉村知事がシェアしています。

吉村氏個人の意見は添えられていませんが、為政者が無言でシェアすることによる影響は大きく、フォロワーの方々の間違った認識を招いているようにも見えました(公人の発信ではないので添付は避けます)。

何が問題なのかを順次、解説いたします。

 

記事の元となった論文の内容

 

以前こちらのブログでも触れていますが、簡単に振り返ります。

 

① 唾液腺や歯肉など、口腔粘膜には広く ACE2 や TMPRSS2 が発現していた

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ACE2:SARS-CoV-2 のレセプター

TMPRSS2:SARS-CoV-2 の感染に関わるプロテアーゼ

すなわち、口腔粘膜から感染しうる、ということです。

 

② 感染者から採取した唾液には感染力と増殖力を持つウイルスが含まれる

これは結構ポイントで、唾液中に活性のあるウイルスがあることを意味します。

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③ マスクを装着することで、唾液の飛沫から検出されるウイルス量が 10 倍以上減少した

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記事内容との相違

まず、舌の細胞を採取したとは書かれていませんでした。

採取したのは唾液腺、歯肉、口蓋粘膜の3種類です。

 

なぜ記事にないのか?

マスクを装着することにより、唾液の飛沫から検出されるウイルス量が 1/10 になったことが示されています。

一般向けにはずっっっっっっっっと大切な情報でしょう。

 

実は別の yahoo!ニュース 記事でもこの論文が取り上げられたことがあったのですが、その時もマスクに関する記載がなく、私個人の Facebook で問題を指摘したことがありました。

(詳細についてはこちらのFB投稿をご参照ください)

(記事リンクは消えてしまっています...)

 

研究者の言葉

研究チームの加藤氏は「考えられていた以上に口腔や唾液が重要な感染経路だとわかった」と述べています。

論文中には、「考えられていた以上」の根拠は示されていません。ここは加藤氏個人の感想に過ぎないと思います。

そう思うことは自由ですし否定はしませんが、研究者ではなく、報道機関向けのメッセージとしてはやや軽率ではないかと思いました。

これまで不明だったことが明らかになったことは事実ですし、この研究自体、大変素晴らしいものであることは間違いありません。以前のブログでも、この論文は大変重要なものであると指摘しています。

 

この論文から分かること

  1. 唾液を介した感染がありうるので、マスクをして飛沫を抑える
  2. 唾液を介した感染がありうるので、飲食の前には手を洗う

一般の方向けのニュースとしては、以上です。

当然、うがいでもイソジンでもありません。

 

吉村さん、いい加減、夢から覚めてくれ

吉村府知事は以前にも、口腔と COVID-19 に関連するニュースを無批判にシェアした過去があります。

 

 

それについては、以下のブログでやんわりと指摘しています。

この時はやんわりと書きましたよ。

 

吉村氏は昨年、「ポビドンヨードでうがいをすると感染者が減るのではないか」と会見で述べ、ポビドンヨードが枯渇するという惨事を招いています。

大阪府保険医協会が痛烈に批判しています。

【理事会声明】医療現場を混乱させる度重なる知事の安易な会見発言 知事の発言は住民の命と健康に関わることを肝に銘じて猛省を - 大阪府保険医協会

 

ポビドンヨードによるうがいが効果的ではないか?とお考えのようですが、唾液は四六時中、出続けています。

ずっと口に含んでいるおつもりでしょうか?

それならいいと思いますよ。しゃべらなくなりますし。

 

冗談はさておき、確かに日本歯科医師会のガイドラインなど、患者さんに処置前にポビドンヨードによるうがいをしてもらうことを推奨するものがあります。

口のなかのウイルス量を一過性に減らすことができ、歯科医療従事者の感染リスクを下げられるだろう、という理屈です(感染リスクが下がることは証明されていません)。

https://www.jda.or.jp/dentist/anshin-mark/pdf/guideline.pdf?v01

 

しかし、最近では、アレルギーのリスクや誤嚥した時の薬剤性肺炎のリスクを考慮し、推奨しない、あるいは積極的な推奨を行わない、弱い推奨をするガイダンスも増えています。

歯科医療従事者の感染リスクは下がりますが、患者さんの感染リスクは下がらず*1、むしろ別のリスクを負わせることになることが懸念されています。

Implications of COVID-19 for the safe management of general dental practice - a practical guide | FGDP

https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2021/0118_1.pdf

https://www.gerodontology.jp/publishing/file/journal_extra/vol36_e4-33.pdf

 

歯科治療前にうがいをすることの是非はまた結論が出ていませんが、歯科治療前の1回だけの使用ならともかく、日常的に使用することには問題があります。

これは非常に有名な論文です。

(為政者としてポビドンヨードに関する発信をしたいのであれば、目を通すべきでしょう)

 

概要は以下の通りです。

風邪の予防を目的として、ポビドンヨードを用いてうがいをした群、水うがいをした群、うがいしない群で比較したところ、水うがい群は風邪発症率を下げた一方で、ポビドンヨード群とうがいしない群では風邪発症率が下がらなかった。

この理由として筆者らは、ポビドンヨードが咽頭の常在細菌叢を乱すとした過去の報告や、ポビドンヨードにより咽頭の細胞が障害されたとする過去の報告を引用している。

風邪予防目的にポビドンヨードを利用すると、効果がないばかりか害があるかもしれない、水で行うべきだ、という結論となっています。

 

ポビドンヨードを用いてうがいをすると、むしろ感染リスクが上がってしまうかもしれません。分かりませんけど。

コロナ対策としてポビドンヨードを用いたうがいを推奨していない理由がここにあります。

 

まとめ

ポビドンヨードの使用は、歯科医院での処置前1回のうがいですら、疑問視されつつあります。

ましてや一般的に、日常的に使用することは推奨されていません。

ほんのわずかなメリットがあるかもしれませんが、デメリットのほうが上回る可能性が高いでしょう。

為政者がこのような対策(対策とも言えないが)の効果を示唆することで、その発信を見た有権者が、本当に必要な対策が疎かにしてしまうおそれがあります。

口の中がきれいだと重症化しないとか、毒だしうがいでリスクを減らせる、などという与太話には耳を貸さず、専門家(分科会)の先生方の意見を参考にし、大阪府民のために確かな発信をしていただくことを願ってやみません。

 

追記

なぜ朝日新聞はマスクに関する論文の結果を記事にしなかったのでしょうか?

不思議ですねー(棒)

参考資料

 

ご質問、ご相談、間違いの指摘はこちらからお願いします

 

*1:厳密には歯科医療従事者の感染リスクが下がることで、巡り巡って患者さんの感染リスクが下がることは考えられます