河野雅臣 歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

もし、あなたの金メダルがおっさんに噛まれたら

名古屋市の河村市長がどえりゃあことしでかしました。

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よく見たら、「コロナ対策」が書かれたボードの前でやらかしてますね

 

赤の他人のおっさんに、いきなり自分の所有物を口に入れられたらただ一言、キモいですよね。

 

また、このコロナ禍において、他人の唾液が危険であるということは一般常識になったと言ってもいいでしょう。メダルを噛むという行為は感染対策上の問題があります。

後藤選手は危険に晒されているわけですが、どうしたのでしょう?

もっと言うと、他人が触れたものを口にいれた河村市長も危険に晒されています。が、別にどうでもいいか。

 

それはともかく、もしあなたの金メダルがどこかのおっさんに噛まれたとき、どのような対応をしたらよいのかを解説したいと思います。

 

 

標準予防策

感染対策の大原則として「標準予防策」というものがあります。

これは「すべての患者の汗を除く体液、粘膜、排泄物、損傷した皮膚は感染性があるものと認識し、これらに接触する場合、または接触する可能性がある場合には対策を行う」という、感染対策における基本的な概念です。

 

今回、おっさんの唾液(体液)が金メダルに付着したため、金メダルには何かしらの病原性微生物が付着している恐れがあります。

適切な対策を行う必要があります。キモいし。

 

必要な対策:金メダルの無菌化

標準予防策に従い、何かしらの病原性微生物が付着している恐れがある、という前提で無菌化の処理を行います。

そのステップを解説しましょう。

 

1. 収容

金メダルをしかるべき場所(無菌化が可能な場所;医療機関など)へ持っていかなければなりません。

おっさんの唾液が付着した金メダルを受け取る際にはグローブを装着し、タッパーやポリ袋等に収容します。タッパーやポリ袋の外側を汚染しないよう、蓋をしめたり口を縛るのはグローブを外してから行いましょう。

ただし、グローブを外した直後にアルコールによる手指消毒が必要です。グローブには見えない穴が空いていることがあることが分かっているため、医療機関ではグローブを外した直後に手指消毒を行っています。

さあ、安全に金メダルを収容できましたので、無菌化ができる場所へ移送してください。

 

2. 洗浄

無菌化できる場所に到着したら、まず最初に行うのは洗浄です。

洗浄と言ってもお皿洗い用の洗剤ではいけません。ご飯粒や油汚れではなく、落とすべきは唾液に含まれるタンパク質や病原性微生物です。

したがって、タンパク分解酵素が入っている医療用の洗剤を使用しなければなりません。

 

洗浄時はグローブ、マスク、ゴーグル、エプロン・ガウンを装着し、洗浄時に発生する飛沫から自分自身の身を守る必要があります。

また、洗浄時に飛沫が発生しにくいよう、水を張ったたらい等の中に沈めて洗浄します。

適切に洗浄を行えば、洗浄の段階で汚染物質の99%以上が除去されます。したがって医療機関では、洗浄は極めて重要なステップとして認識されています。

 

最近は、洗浄〜乾燥まで自動で行ってくれる機械(ウォッシャーディスインフェクター)を導入している医療機関も少なくありません。

 

3. 乾燥

最終ステップで滅菌を行いますが(後述)、滅菌する前には被滅菌物(今回は金メダル)が十分に乾燥した状態である必要があります。

乾燥の方法は多様ですが、今回は金メダル一つですので、清潔な布やペーパータオル等で乾燥させましょう。

 

4. 検査

乾燥後、適切に洗浄されているか、目に見える汚れがないか、水滴が残っていないか確認を行います。

この段階で歯形が付着している場合、記録を取っておきましょう。

 

5. 滅菌

滅菌とは、微生物をすべて死滅*1させて無菌化する工程のことです。

厳密には100%無菌化することは不可能であり、医療機関で採用されている滅菌の基準は「活性のある微生物がその医療機器に付着している可能性が100万分の1以下」とされています。

 

耐熱性のある金メダルの場合、高圧蒸気滅菌という方法が用いられます。

これは熱伝導率の高い飽和蒸気を用いた滅菌法です。

ただし、100℃の水蒸気では滅菌には温度が足らないので、高温(121℃または134℃)の飽和蒸気を得るために2〜3気圧に加圧する必要があります。

この工程をオートクレーブという機械が自動で行ってくれます。

 

注意点として、金メダルにまんべんなく水蒸気が触れるよう、オートクレーブの内部に他の医療機器を詰め込みすぎないように積載する必要があります。

また、オートクレーブの種類によっては包装ができない*2こともあります。ただ金メダルは滅菌後に滅菌状態を維持する必要がありませんので、包装は不要ですね。

繰り返しになりますが、十分乾燥させておくことも重要です。

この工程は60〜90分程度の時間がかかります。

 

6. 記憶の抹消

さて、ここまでの工程で、あなたの金メダルは医学的には無菌化されました。

正確には100万分の1以下の確率で不潔な可能性があります。

 

しかし、おっさんに金メダルを噛まれた瞬間の映像が、あなたの脳味噌にしっかりと刻まれていることでしょう。

キモいですよね、お察しします。

この記憶が抹消されて初めて、滅菌が完了したと言えるのかもしれません(自分でも何言ってるか分からない)。

 

河村市長へのメッセージ

おみゃーは金のシャチホコでも噛んでろ!!!

 

追記(2020.08.07)

河村氏、既に4月にシャチホコ噛んでました。

お見それしました。

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続編

歯科界のチカラで金メダル作っちゃう!? 

 

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おまけ:おっさんとして生きるには

私もあと2週間ほどで36歳になります。
メダルを噛まれた後藤選手、20歳の女性からすれば立派なおっさんです。
 
自分がおっさんである以上、おっさんの自覚を持たねばなりません。
 
おっさんは、
  1. 目立とうとしてはいけない。若者を立てねばならない。
  2. 尊大になってはいけない。尊敬できる若者は少なくない。
  3. 説教してはいけない。見守る度量を持たねばならない。
  4. 蘊蓄を披露してはいけない。だいたい間違っている。
  5. 何でも野球で例えてはいけない。若い女性は野球に興味がない。
  6. 偉そうに廊下の真ん中を歩いてはいけない。下を向いて端っこを歩かねばならない。
  7. 子どもの運動会で全力疾走してはいけない。どうせ怪我するだろ。
  8. SNSに自撮りを上げてはいけない。誰も欲しがっていない。
 
特に自撮り写真、知り合いが付き合いでいいねしていることにいい加減気付きましょう。
おっさんがSNSにあげてもいいのは「飯がうまい」「猫がかわいい」の2つだけです。
 
「自分はメダルを噛むなんてことしないから大丈夫」と安心してはいけません。
おっさんが避けるべき行動は他にもあるのです。
リスクを丁寧に顕在化させ、偏りなく評価し、冷静に管理しなければなりません。
おっさんであることが既にリスクなのですから...(自戒を込めて)

 

*1:あるいは不活化

*2:クラスN滅菌器は包装できない