河野雅臣 歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

【暫定版】歯科とオミクロン【1/5、1/9 追記】

11月に南アフリカ共和国から報告された新たな変異ウイルスであるオミクロンが、12月22日に大阪府で報告されました。

f:id:masaomikono:20211227155254j:plain

国立感染症研究所が公開したオミクロンの電子顕微鏡写真(陰謀論者封じ)

これまでに大阪府、京都府、東京都、愛知県、福岡県、奈良県、広島県、沖縄県などから、海外渡航歴のない方の感染事例(いわゆる市中感染)が報告されています。

いわゆる水際対策により、ある程度の時間稼ぎをすることができました。政府の初動対応としては良かったと思います(10万円をどうするこうする、という議論をしている暇はないだろと思ってましたけど)

 

その間、オミクロンについて様々なことが分かってきました。

日本は何も分からずに迎えるより有利な状態にあると言えるでしょう。

 

オミクロンの特徴

詳細は忽那賢志先生小野昌弘先生西浦博先生の解説記事をお読みいただければと思います。

ここでは新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長の12月23日に発表した談話を見てみましょう。

尾身先生のお話です、ありがたく拝聴しましょう。

オミクロン株について、不明な点も多くありますが、以下の諸点が明らかになってきています。

① 英国や南アフリカ共和国など海外の流行地域では倍加時間が 2-3 日と極めて短いとの報告を踏まえると、いわゆる市中感染が始まると急速に感染拡大する可能性があること。

② 英国の検討では、ワクチンによる発症予防効果は、デルタ株では約 70%に対し、オミクロン株では約 20%と低い可能性が指摘されていること。

③ 重症化リスク及びワクチンの重症化予防効果については明確な科学的知見はありません。
しかし、デルタ株に対する重症化予防効果は、時間が経過しても 65 歳未満ではほとんど減弱しない一方で、65 歳以上の高齢者では 80%程度まで低下するというデータもあり、ワクチン接種者でも特に高齢者は感染した場合には重症化する可能性がある。
一方、追加接種によって、ワクチンの効果を改善させることが可能との報告が出てきています。例えば、英国の検討では、追加接種を行った後には、発症予防効果はデルタ株では9割程度、オミクロン株では8割程度と共に改善していたことが示されています。

 

今のところ(12月27日時点)、オミクロンについてほぼ分かっているのは、感染力が強いこと、ワクチン(2回接種)による感染予防効果が期待できなくなってしまった、ということでしょう。

病原性はデルタと比較すると低下していることは明らかになってきましたが、確かなことは1月中にも分かってくると思います。

 

ワクチンの感染予防効果について(参考)

イギリスの保健安全保障庁(最近発足したらしいです)がブースター接種を含んだワクチンの感染予防効果についてデータを公表しています。

2回接種のみの場合、20週を超えると、オミクロンに対してアストラゼネカ、ファイザー、モデルナのいずれのワクチンであっても感染予防効果はほとんどなくなっています。

ブースター接種を行うと(アストラゼネカ→ファイザー/モデルナ、またはファイザー→ファイザー/モデルナ)それなりに上昇しますが、漸減していきます。

f:id:masaomikono:20211227170702p:plain

アストラぜネカ⇨ファイザー/モデルナ

f:id:masaomikono:20211227170708p:plain

ファイザー⇨ファイザー/モデルナ

f:id:masaomikono:20211227170725p:plain

モデルナ

結構衝撃的ですよね...

 

歯科における対応

さて、問題はここからです。

国外で感染が先行したので、歯科に関しても情報が出てくることを期待していましたが、今のところ情報はありません。

 

その中で、いま私が懸念しているのは以下の2点です。

1. 感染力が強く、ワクチンの感染予防効果が期待できない中で、エアロゾルによる感染リスクが高まっていることが予想される

2. 第6波が来た時の歯科医療提供体制

 

1. エアロゾルによる感染リスクが高まっているかも

これまでの研究で一部の歯科治療では吸入可能なエアロゾルが発生すること、そして COVID-19 患者の歯科治療で発生するエアロゾル中に複製可能な SARS-CoV-2 が含まれることは分かっています。

そして、国立感染症研究所厚生労働省は、歯科口腔処置はエアロゾル発生手技(AGP)であり、COVID-19患者あるいは疑われる患者、濃厚接触者の歯科診療では N95 マスク(またはそれに相当する呼吸器保護具)が必要としています。

 

デルタまでは歯科医療を介した感染の報告は少なかったです(”感染”と”感染の報告”は違うけど)。

オミクロン出現後も、今のところ歯科医療を介した感染事例が増えた、という海外当局からの発表や論文はありません。

が、歯科医療従事者の病欠が増えているという英国歯科医師会のリリースはあります。

 

なお、イギリスの歯科向けガイドラインでは AGP で N95(FFP2)を装着すること、AGP 後には待機時間を設けることが明確に求められていますので、日本よりも(建前では)厳格な感染対策を行っているようです。
従って(建前を信頼するなら)歯科治療を介した感染ではなく、それ以外の機会での感染がほとんどなのだろう、と考えられます。

 

何を準備したらいいか(妄想)

ここから当たるも八卦当たらぬも八卦です。

 

感染力が強くなり、ワクチンの感染予防効果が期待できないオミクロンに対して、現行の日本の歯科の対応で良いのかはまだ分かりません。

もし強化するなら、という前提でお話します。

 

1. N95 マスクの導入

AGP に対して N95 マスクを導入する。

N95 マスクにはフィットテストとシールチェックが必須です。

フィットテストは定性・定量があるが、ともに専用の器具と知識が必要です。

参考:日本老年歯科医学会 歯科訪問診療における感染予防策の指針 2021年版

 

2. 換気の強化

エアロゾルへの対策として、CDC では ACH>6 、できれば ACH=12 が望ましいとしています。

ACH に関する解説はこちら。


機械換気を導入すると安定した換気効率が得られますが、環境保護(電力消費)の観点から、あまりにオーバースペックな換気装置の導入は望ましくない、と個人的には思います。

 

3. AGP の削減

AGP そのものを減らす、という考え方です。

手用切削器具を使う、タービンではなく5倍速エンジンを使う、などですね。

ラバーダムも有効です。

 

4. BCPの策定 ←New!!(2022年1月5日)

BCP とは Business Contiuity Plan の略で、日本語では事業継続計画と言います。

災害時や緊急時にも、企業が重要な事業を継続できるようにあらかじめ計画を策定しておく、または体制を整えておくことを言います。

COVID-19 では、特にオミクロンでは(暫定的に)濃厚接触者よりも広い範囲の接触者にも 14日間の不特定多数との接触の自粛が依頼されるようになりました。

歯科医院全員が休業、あるいは一部が休診を余儀なくされる可能性があります。オミクロンの感染力を考えると、その可能性は低くないと思います。

またオミクロンは子どもの感染も多くなっています。幼稚園や保育園、小学校でクラスターが発生すると、子どもを預かってくれる場所がなくなります。その時にスタッフが不足する可能性も考慮しておくべきでしょう。

BCP についてはこちら

 

小括

今後ずっと N95 マスクや AGP の削減が必要となるでしょうか?

正直分かりませんが、次の3つのパラメータに左右されるかと思います(それ以上あるかもしれません)。

1. ブースターを接種しているか否か

2. 地域の感染状況

3. 個々人のリスク許容度

 

 

1. ブースターを接種しているか否か

2回接種ではほとんど感染予防効果が期待できませんが、ブースター接種後はそれなりに感染予防効果が発揮されるようです。

それでも漸減するのであまり期待しすぎないほうが良さそうですが。

ブースター接種まではより厳格な対応にシフトするのはアリだと思います。

 

2. 地域の感染状況

目の前の患者さんが感染している確率が高くなれば対策を強化、低い状況であれば緩和、という考え方は悪くないと思います。

感染者数が増えてきた時にはすでに感染は広がっていることは、これまでの経験でお分かりだと思います。

したがって、年明けから強化する、というのは合理的な判断だと思います。

 

3. 個々人のリスク許容度

個々人の価値観や健康感、重症化リスクに関連する疾患の有無、重症化リスクの高い同居人の存在などにより、どこまでリスクを許容できるかは人によって異なります。

歯科医院としてどうするか、ということを考える時には、まず従業員と話し合い、それぞれの許容できるリスクを把握し、最大公約数的なものにするのが無難だと思います。

 

私だったらこうする

ご参考までに私だったら、を書いておきます。

 

〜ブースター接種まで〜

・直ちに換気を強化する

・AGP を極力減らす

・N95 マスクを導入する

・感染の状況に応じて待機時間を設定する

 

〜ブースター接種後〜

・その時のエビデンスに基づき新しい判断をする(←いずれブログにします、たぶん)

 

章のはじめに申し上げた通り、ここまでの記述は予想ですのであしからず。

 

 

2. 第6波が来た時の歯科医療提供体制

どれほどの感染者数となるのか、重症者数となるのかは不明ですが、歯科で問題となりうるのは自宅やホテルなどで療養する無症状〜軽症者への往診依頼です。

第5波では、医療が逼迫して入院できず、自宅やホテルでの療養を余儀なくされた患者さんが少なくありませんでした。

また、面会ができなくなる、ペットがいるなどの理由で自宅での療養を希望された患者さんもいらっしゃいました。

こうした方々に歯科的問題が発生した場合、どのように対応するのかは地域ごとに考えたほうが良いと思います。

きっと次もありますから。

 

まとめ

オミクロンが歯科に与えるであろう影響と対策について考察してみました。

「個々人のリスク許容度」でもお伝えした通り、それぞれご判断いただければと思います。

 

本年も本ブログをご愛顧いただきましてありがとうございました。

良いお年をお迎えください。

 

おまけ:もし歯科医療従事者のオミクロン感染が多いことが分かったら

万が一への対応を議論しようとすると「そんなこと起こらない」「言霊って知ってる?」となるのですが、もうそういうのはやめましょう。

パンデミックを生きる我々には、将来の子どもたちのために向き合う責任があると思います。

 

さて、もし歯科医療従事者のオミクロン感染が目立つようになったと想定してみましょう。

その時「歯科は従来から感染対策に力を入れてきた。だから安全だ。」という神話が崩れることになります。

その時は「オミクロン強すぎ(ぴえん)」と、白旗上げて以下のような取り組みをすべきでしょう。

① N95 マスクのフィットテストを地域単位で組織的に取り組むための補助金等の要求

② 換気を強化するための補助金等の要求

③ 上記が認められるまでの診療制限(AGP制限)

 

本来は平時に①②が出来ればいいのですが、なかなか難しいですね。

 

ご相談はこちらまで

www.masaomikono.com

 

本ブログ記事には著作権を設定しております。

個人利用、歯科医院単位での利用はOKです。

某団体さん、もうパクらないでくださいね。パクるにしてもやりようってもんがあると思いますよー。

www.masaomikono.com