河野雅臣 歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

CDCガイダンス 初めて歯科に関する項目が記載されました

9月10日付けで CDC の医療従事者向けガイダンスが改定されました。

 

これまで CDC からは歯科に特化したガイダンスは出ていたのですが、医療従事者向けガイダンスには歯科に関する記載がありませんでした。

www.masaomikono.com

今回初めて掲載されましたので、ご紹介したいと思います。

 

情報収集について

歯科医療従事者は、定期的に州の歯科医師会や州・地域の保健局に最新の情報や推奨事項、必要事項を問い合わせること

日本では国や自治体、という理解で良いでしょう

 

COVID-19 患者への対応

以下の場合は、緊急性のない歯科治療はすべて延期する

  1. 感染経路別予防策が必要なくなるまで
  2. 隔離基準を満たすまで

これらの患者の歯科治療は、医学的に必要な場合にのみ行う。

感染が疑われる、あるいは感染が確認された患者には、ケアと配置に関するすべての推奨事項に従うこと。

アメリカ国内での隔離基準等の話なので特に気にせずとも良いと思います。

日本では退院基準を満たす、濃厚接触者であれば自宅待機の期間を過ぎるまでは緊急性のない歯科治療は延期する、という対応で良いでしょう。

 

歯科疾患による発熱が疑われる場合の対応

患者が歯科疾患と強く関連する発熱(歯髄や歯周組織の痛み、口腔内の腫れなど)を呈していて、COVID-19 の他の症状がない場合は、推奨される感染対策に従って歯科治療を行うことができる

 

いわゆるエアロゾルが発生する処置について

・感染が疑われていない、あるいは感染が確認されていない患者にエアロゾルを発生させる処置を行う場合は、推奨されるPPE* を正しく着用する

  * 感染者がかなり多い、あるいは陽性率が高い地域では、NIOSH 承認の N95 マスク、または同等以上の呼吸器保護具を装着する必要がある

「感染者がかなり多い、あるいは陽性率が高い」に関する基準は書いてありませんでした。

なお、歯科向けのCDCガイダンスでは「感染者がいない」「中程度〜多い」に分類され、後者では N95 マスク等が必要とされています。が、こちらも基準はありません。

 

飛沫やエアロゾルを最小限に抑えるために、4ハンドでの治療、高容量の吸引装置、ラバーダムなどのエアロゾル緩和策を採用すること

ここに列挙されている緩和策は各種研究が進んでおり、確実なものになりつつあります。

アメリカの吸引システムは日本のそれとは異なることが多く、当初は比較できなかった*1のですが、日本独自に発展してきた口腔外バキュームも最近では各国で研究がなされ、概ね有用性が示されています(その1その2その3その4。あまり効果なしとされた研究

「処置前のうがい」が書いていないところはポイントですね。ちなみにイギリスははっきりと「推奨しない」としています(詳細はこちら)。

 

・エアロゾルが発生する歯科機器:超音波スケーラー、ハンドピース、3wayシリンジ、エアポリッシャー、エアアブレージョンなどがある

ハンドピースは議論の余地があります。

イギリスの研究チーム(NIHの補助金でガンガン研究している)が”チップエアー”(ヘッドから出る空気)を off にした場合で、エアロゾルが最小化できる回転数の域値を明らかにしており、イギリスのガイドラインにはこの研究結果が反映されています。

ちなみに、私が作成に関与した日本老年歯科医学会の指針にも、同様の記載をしています。こちらもご確認ください。

エアポリッシャーはエアフロー®︎のことですかね。

エアフローワン | EMS Dental

エアアブレーションは私は見たことがないのですが、このような機械だそうです。

製品情報 | SDNIコスモ株式会社

 

歯科医院の環境整備について

・歯科治療は、可能な限り個別の病室で行う

・オープンスタイルの歯科医院では、以下の対策を行う

  1. ユニット間は、少なくとも6フィート*2(約2メートル)空ける
  2. ユニット間に物理的なバリアを設ける。床から天井までのバリアは、HEPAフィルター付き空気清浄機の効果を高める(ただし、スプリンクラーの妨げにならないこと)
  3. ユニットは、可能であれば気流の方向と平行に配置する
  4. 可能であれば、ユニットの向きを慎重に検討し、患者の頭を空気排出口の近くに設定し、廊下から離す。オープンスタイルの場合は壁に向けて配置する
  5. 1日の患者数を計算する際には、患者間で行われる診療室の清掃・消毒に要する時間を考慮する

アメリカは空気清浄機推しな傾向があります。ただ注意して欲しいのは、換気効率が高くなると相対的に空気清浄機の効果は低くなることが明らかになっていますので、「空気清浄機がある」ということは「換気が良くない」ことの裏返しと見られる時代が来るかもしれない、という点です。詳細はこちらの記事をご参照ください。

「患者間で行われる〜時間」は待機時間のことです。待機時間についての詳細はこちらの記事からご確認ください。

 

まとめ

飛沫やエアロゾルの緩和策が明記されたこと、うがいの記載がないこと、待機時間を示唆するような記載があること、はポイントだと思います。

ハンドピースの使用が全て、エアロゾルが発生するわけではないので、この辺りはちょっと荒いかな、という印象を受けました。

日本のガイドライン、イギリスのガイドラインとの相違が徐々に浮き彫りになってきていますね。そのうちまとめてみようと思います。

 

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*1:比較出来なかったはずですが、なぜかアメリカの吸引システムが優れているという論説があるようです。読んだことはないのですが、そういう記事を読んだ、という問い合わせが、特に昨年の4-5月を中心にありました。商魂逞しいと言えばそれまでですが、あまり関心できる動きではなかったですね。

*2:ポンド・ヤード法は早く滅びて欲しい