河野雅臣 歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

国立感染症研究所「歯科処置はエアロゾルが発生する処置である」

2021年6月30日、国立感染症研究所の「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理」が約半年ぶりに改訂されました。

新型コロナウイルス感染症に対する感染管理(2021年6月30日改訂版)

 

押さえておくべきポイント

歯科に関係する主な改訂としては以下の3つが挙げられます。

  1. エアロゾルが発生する可能性のある手技として、これまでは記載がなかった「歯科口腔処置」が加わった
  2. COVID-19患者あるいは疑われる患者、濃厚接触者の歯科診療ではN95マスクが必要、N95マスクには事前のフィットテストと装着前のシールチェックが必要
  3. 環境表面の消毒に次亜塩素酸水の使用が可能;ただし調整直後の使用または事前に濃度を確認すること、ヒタヒタに濡らして20秒以上作用させること

一つずつ見ていきましょう。

 

エアロゾルが発生する可能性のある手技

「歯科口腔処置」がエアロゾルが発生する可能性のある手技として、日本の公文書では初めて記載されました。

画期的なことと評価する一方、いくつが問題があります。

まず、「エアロゾルとは何か?」という定義が示されていません。

また、「歯科口腔処置」とは何を指すのかもはっきりしません。

さらに、「歯科口腔処置がエアロゾルを発生する可能性がある」とする根拠も示されていません。

 

エアロゾルとは何か?

「エアロゾル」という用語は定義が定まっていません

そのために様々な混乱を招いています。

論文などを読んでいても、エアロゾルという定義が記載されておらず、適当に使われていることもしばしばです。

昨今では再定義(というよりも初めて定義する?)の流れもあるようで、100μm を基準とするべきだとする意見があります。

現状としてはある程度のコンセンサスとして、「一定時間空気中を浮遊することができる(感染性)微粒子であり、浮遊する時間は各種条件で左右される」と考えて差し支えないと思います。

 

以下、マニア向け

こうした混乱があることは国立感染症研究所であれば承知のことだと思いますが、可能な範囲で「エアロゾルとは何か」を示してもらいたかったと思っています。

というのも、エアロゾルによる感染を「空気感染」と誤って解釈してしまう人がいるからです。

古典的な感染経路として飛沫感染と接触感染、空気感染がありますが、それぞれ対をなすように感染対策が定まっています(表)。

 

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もし「COVID-19は空気感染する」と言うのなら、「空気感染予防策が必要だ」と言うことになります。したがって陰圧室とN95マスクで診療・管理する必要があるわけです(そうしたいならそうしたらいいと思いますよ)。

「陰圧室は必要ない、N95マスクは必要だ」であれば、空気感染予防策ではなく、したがって空気感染ではありません。と同時に飛沫感染の範疇からもはみ出しています。

新しい感染経路、感染予防策の概念の確立が必要だと思います。

 

歯科口腔処置とは何か?

一口に歯科口腔処置と言っても多岐にわたります。

これまでのところ、タービン、超音波スケーラー、3wayシリンジ、エンジン(60,000rpm以上)がエアロゾルが発生する処置と考えられています。

他の処置、特に歯磨きや歯面清掃はどうでしょうか?

研究が必要だと思います。

今回発表された国立感染症研究所の「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理」の記載を確かなものにするためにも、研究が必要です。なければ今後もこのままでしょう。

 

歯科口腔処置がエアロゾルを発生させる可能性がある?

前述した通り「エアロゾル」の定義ははっきりしていない(特に粒径)のですが、少なくとも5μm未満の微粒子が発生していることを示すことができれば「エアロゾルが発生している」と言って差し支えないでしょう。

それを示す論文はいくつかあります。

SARS-CoV-2: characterisation and mitigation of risks associated with aerosol generating procedures in dental practices

Mitigating saliva aerosol contamination in a dental school clinic

Mechanisms of Atomization from Rotary Dental Instruments and Its Mitigation

いずれもタービンや超音波スケーラーを使用した研究ですが、パーティクルカウンターという機械を用い、0.1 〜 10 μm の粒子を観測したと報告しています。

0.3μm 未満の粒子が 99% 以上を占めていた、とする報告①もあり、今後エアロゾルの定義がどうなろうとも、歯科口腔処置の”一部”はエアロゾルを発生させる可能性があると言えるでしょう。

 

おまけ:歯科口腔処置で発生するエアロゾルに SARS-CoV-2 は含まれているのか

エアロゾルが発生していようとも、エアロゾル中にウイルスが存在していなければ感染リスクは下がります。

これについては、エアロゾル中に SARS-CoV-2 を確認した、とする論文と確認されなかった、とする論文がそれぞれ発表されています。

この話題も近日中にブログにまとめようと思います。

 

N95 マスク

今回、「COVID-19 患者あるいは疑われる患者、濃厚接触者の歯科診療では N95マスク が必要」と明記されました。

COVID-19 患者と濃厚接触者は診断あるいは認定がなされているのでわかりやすいのですが、問題は「COVID-19 が疑われる患者」です。

 

潜伏期間あるいは無症状者にも感染力がありますので、非常に悩ましいところです。

少なくとも現在行っているスクリーニング(受診時の検温や体調の聞き取り、体調不良時の診察延期や出勤停止)は継続する必要があります。

 

フィットテスト・シールチェック

N95マスクには事前のフィットテスト(写真)と装着前のシールチェックが必要と明記されました。

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定性的フィットテスト

フィットテストを行わない N95 マスクの使用はサージカルマスクよりも劣る可能性も指摘されています。医療資源の無駄使いにもなりますので、使用するのであればフィットテストを行いましょう。

もちろん使用直前のシールチェックもお忘れなく。

 

次亜塩素酸水

環境表面の消毒への使用が明記されました。

使用方法の制限が多く、ヒタヒタに濡らす必要があるため量も必要ですね。大量に使用する場合(例えば浴室の清掃・消毒)ならいいのかもしれませんが、日常診療現場では現実的ではないでしょう。

(国立感染症研究所の書き方は使うなと言っているように読めます(笑))

次亜塩素酸ナトリウム(ハイター®︎)の方が使い勝手がいいですね、安いですし。

また、医療器具の消毒や手指への応用、口腔内への応用(うがい・ユニット給水系への導入)が許可されたわけではありませんのでご注意ください。

 

その他:医療関係者の感染予防策

冒頭に「医療関係者の感染予防策」が記載されています。

医療機関内の感染予防策よりも先に書かれているということは、重要だということです。

日常生活で3密を避けること、医療機関内でも3密を避ける(更衣室や休憩室など)、体調不良時は出勤しない、などの項目があります。

ワクチン接種による緩和策は記載されていません。記載されていないということは、これまでと扱いは変わらないということです。

ワクチン接種の有無で対応を変えないようにしましょう。

 

まとめ

こうした公的機関の発表から、徐々に未来の感染予防策の輪郭が分かってくることでしょう。

歯科領域も少しずつ変わりつつあります。今後またブログにまとめようと思います。

 

 

 

「歯科訪問診療における感染予防策の指針 2021年版」講演スライド公開

6月12日、日本老年歯科医学会の第32回学術大会にて、シンポジウムに登壇し、
「「歯科訪問診療における感染予防策の指針 2021年版」の解説」として講演もさせていただきました。

その際、講演に用いたスライドを公開*1いたします。

重要なポイントを抜粋して解説をしています。ぜひご確認ください。

 

無断転載、改変、商用利用は著作権違反として対応いたしますのでご注意ください。

ダウンロードして院内でご利用いただくことは構いません。

本ブログ記事をSNSにシェアしていただくことは大歓迎です。

 

 

 

*1:6月30日まで学術大会HPでオンデマンドで公開されていましたので、7月1日から公開としました。

新しいニュルブルクリンク?

先日知人(歯科医師)から、とある6枚の写真が送られて参りました。

 

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新ニュルンベルグ裁判準備委員会???

なんじゃそら(笑)

 

新しいニュルブルクリンクで昨年からF1が開催されてますが、そのことですか?

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いつかここを走ってみたいです(スーパーカーのレンタルもあるらしいですよ)

 

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ニュルンベルグ裁判は、ナチスを裁いた裁判でしたね。

マスクやPCR、ワクチンと何が関係あるんでしょう?

 

国際刑法第7条、めんどくさいですけど一応調べてみました。

国際刑事裁判所に関するローマ規程

第七条 人道に対する犯罪

1 この規程の適用上、「人道に対する犯罪」とは、文民たる住民に対する攻撃であって広範又は組織的なものの一部として、そのような攻撃であると認識しつつ行う次のいずれかの行為をいう。

(a) 殺人
(b) 絶滅させる行為
(c) 奴隷化すること
(d) 住民の追放又は強制移送
(e) 国際法の基本的な規則に違反する拘禁その他の身体的な自由の著しいはく奪
(f) 拷問
(g) 強姦(かん)、性的な奴隷、強制売春、強いられた妊娠状態の継続、強制断種その他あらゆる形態の性的暴力であってこれらと同等の重大性を有するもの
(h) 政治的、人種的、国民的、民族的、文化的又は宗教的な理由、3に定義する性に係る理由その他国際法の下で許容されないことが普遍的に認められている理由に基づく特定の集団又は共同体に対する迫害であって、この1に掲げる行為又は裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪を伴うもの
(i) 人の強制失踪(そう)
(j) アパルトヘイト犯罪
(k) その他の同様の性質を有する非人道的な行為であって、身体又は心身の健康に対して故意に重い苦痛を与え、又は重大な傷害を加えるもの

 

 

「人道に対する犯罪」だそうです。

...何が?

 

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ワクチン接種は義務ではありません。

接種しない権利はありますので、自由にしたらいいと思います。

接種しないことで失う権利も今後、出てくると思いますが(別にそれがいいとは言ってないけど)、それも自由です。

我が国の憲法で認められた「自由」とは、そういうものです。

 

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無料のワクチンは他にもありますよ。

定期接種と任意接種|ワクチン.net(ワクチンネット)

そのカラクリはなんと公費です。

 

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通信チップ?5Gが何とかっていうやつですか?

ネット回線引かなくてもあんな動画やこんな動画が見れるこのブログが見れるようになるんですか!?

しかも脳内で!?

素晴らしいじゃないですか!!

 

新ニュル委員会の活動

脅迫?強要?いずれにしても危ないですね。

 

歯科医療機関のみなさま

どうやら医療機関や公的機関をメインに訳のわからない文書を送りつけているようです。

開封せず焼却しましょう。

廃棄するのにもお金がかかるんですけどねぇ...、本当に迷惑です。

 

まとめ

ニュルブルクリンクでは何に乗りたいですか?

私はマクラーレンです。

 

ワクチンと歯科医療についてはこちらをご参照ください 

 

 

 

「歯科訪問診療における感染予防策の指針 2021年版」のご案内

6月11日、日本老年歯科医学会から「歯科訪問診療における感染予防策の指針 2021年版」が公開されました。

私も微力ながら作成に関わらせていただきました(主にⅡ章〜Ⅶ章、Ⅴ章((6)を除く))。

 

こちらから無料でダウンロードできます。ぜひご活用ください。

https://www.gerodontology.jp/publishing/file/journal_extra/vol36_e4-33.pdf

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指針では、在宅および老人福祉施設等での感染予防策についての解説はもちろんのこと、老人福祉施設等でクラスターが発生した場合の介護職員へのサポートや、地域の医療を支えるために歯科医療関係者に求められることなど、多岐にわたる内容となっております。

ぜひご確認、ご一読ください。

ちょっと長いですけど。

 

宣伝

6月12日には、第32回日本老年歯科医学会学術大会でシンポジストを務めさせていただき、指針の解説をいたします。

その様子はオンデマンドで6月27日まで公開されていますので、ぜひ学術大会にご参加いただき、ご視聴いただければ幸いです。

参加登録も6月27日まで可能です。→6月30日まで延長となりました。

 

6月28日以降、本ブログでも解説記事を書こうと思います。 

⇨7月1日以降

 

吉村さん、口腔とコロナ関連ニュースのシェアは計画的にオナシャス!

6月8日、朝日新聞デジタルから、以下のようなニュース記事が配信されました(リンクはyahoo!ニュース)。

 

記事概略は以下の通りです。

や唾液腺などの細胞にも新型コロナウイルスが直接感染していることを、米ノースカロライナ大などの研究チームが突き止めた。
口内でウイルスが増え、唾液を通じて感染を広げる可能性があるという。
専門家は会食など飲食の場での感染対策に一層の注意を呼びかける。

PCR検査に使う唾液の中にもウイルスが存在することはわかっていたが、口内の細胞に直接感染しているのかは不明だった。

や歯肉、唾液腺などの細胞に、ウイルスが細胞に侵入するのに使うたんぱく質「ACE2」や、「TMPRSS2」が存在していることを特定した。(→後述①)


新型コロナで亡くなった患者から提供された唾液腺や軽症患者の唾液を調べ、ウイルスが口内の細胞に感染し、増殖している様子を確認できたという。(→後述②)
ウイルス量の多い患者の唾液を、体外で培養したサル由来の細胞にふりかける実験で、ウイルスが細胞に感染、増殖したことを確認した。唾液が感染を広げることを証明できた。(→後述②)

 

チームの加藤貴史ノースカロライナ大研究員(呼吸器内科)は「考えられていた以上に口腔や唾液が重要な感染経路だとわかった。口腔で増えたウイルスが肺などに侵入し、重症化とどう関わるかも研究を進めていきたい」と話した。

論文は米科学誌ネイチャー・メディシン(https://doi.org/10.1038/s41591-021-01296-8)に掲載された。

 

この記事を大阪府吉村知事がシェアしています。

吉村氏個人の意見は添えられていませんが、為政者が無言でシェアすることによる影響は大きく、フォロワーの方々の間違った認識を招いているようにも見えました(公人の発信ではないので添付は避けます)。

何が問題なのかを順次、解説いたします。

 

記事の元となった論文の内容

 

以前こちらのブログでも触れていますが、簡単に振り返ります。

 

① 唾液腺や歯肉など、口腔粘膜には広く ACE2 や TMPRSS2 が発現していた

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ACE2:SARS-CoV-2 のレセプター

TMPRSS2:SARS-CoV-2 の感染に関わるプロテアーゼ

すなわち、口腔粘膜から感染しうる、ということです。

 

② 感染者から採取した唾液には感染力と増殖力を持つウイルスが含まれる

これは結構ポイントで、唾液中に活性のあるウイルスがあることを意味します。

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③ マスクを装着することで、唾液の飛沫から検出されるウイルス量が 10 倍以上減少した

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記事内容との相違

まず、舌の細胞を採取したとは書かれていませんでした。

採取したのは唾液腺、歯肉、口蓋粘膜の3種類です。

 

なぜ記事にないのか?

マスクを装着することにより、唾液の飛沫から検出されるウイルス量が 1/10 になったことが示されています。

一般向けにはずっっっっっっっっと大切な情報でしょう。

 

実は別の yahoo!ニュース 記事でもこの論文が取り上げられたことがあったのですが、その時もマスクに関する記載がなく、私個人の Facebook で問題を指摘したことがありました。

(詳細についてはこちらのFB投稿をご参照ください)

(記事リンクは消えてしまっています...)

 

研究者の言葉

研究チームの加藤氏は「考えられていた以上に口腔や唾液が重要な感染経路だとわかった」と述べています。

論文中には、「考えられていた以上」の根拠は示されていません。ここは加藤氏個人の感想に過ぎないと思います。

そう思うことは自由ですし否定はしませんが、研究者ではなく、報道機関向けのメッセージとしてはやや軽率ではないかと思いました。

これまで不明だったことが明らかになったことは事実ですし、この研究自体、大変素晴らしいものであることは間違いありません。以前のブログでも、この論文は大変重要なものであると指摘しています。

 

この論文から分かること

  1. 唾液を介した感染がありうるので、マスクをして飛沫を抑える
  2. 唾液を介した感染がありうるので、飲食の前には手を洗う

一般の方向けのニュースとしては、以上です。

当然、うがいでもイソジンでもありません。

 

吉村さん、いい加減、夢から覚めてくれ

吉村府知事は以前にも、口腔と COVID-19 に関連するニュースを無批判にシェアした過去があります。

 

 

それについては、以下のブログでやんわりと指摘しています。

この時はやんわりと書きましたよ。

 

吉村氏は昨年、「ポビドンヨードでうがいをすると感染者が減るのではないか」と会見で述べ、ポビドンヨードが枯渇するという惨事を招いています。

大阪府保険医協会が痛烈に批判しています。

【理事会声明】医療現場を混乱させる度重なる知事の安易な会見発言 知事の発言は住民の命と健康に関わることを肝に銘じて猛省を - 大阪府保険医協会

 

ポビドンヨードによるうがいが効果的ではないか?とお考えのようですが、唾液は四六時中、出続けています。

ずっと口に含んでいるおつもりでしょうか?

それならいいと思いますよ。しゃべらなくなりますし。

 

冗談はさておき、確かに日本歯科医師会のガイドラインなど、患者さんに処置前にポビドンヨードによるうがいをしてもらうことを推奨するものがあります。

口のなかのウイルス量を一過性に減らすことができ、歯科医療従事者の感染リスクを下げられるだろう、という理屈です(感染リスクが下がることは証明されていません)。

https://www.jda.or.jp/dentist/anshin-mark/pdf/guideline.pdf?v01

 

しかし、最近では、アレルギーのリスクや誤嚥した時の薬剤性肺炎のリスクを考慮し、推奨しない、あるいは積極的な推奨を行わない、弱い推奨をするガイダンスも増えています。

歯科医療従事者の感染リスクは下がりますが、患者さんの感染リスクは下がらず*1、むしろ別のリスクを負わせることになることが懸念されています。

Implications of COVID-19 for the safe management of general dental practice - a practical guide | FGDP

https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2021/0118_1.pdf

https://www.gerodontology.jp/publishing/file/journal_extra/vol36_e4-33.pdf

 

歯科治療前にうがいをすることの是非はまた結論が出ていませんが、歯科治療前の1回だけの使用ならともかく、日常的に使用することには問題があります。

これは非常に有名な論文です。

(為政者としてポビドンヨードに関する発信をしたいのであれば、目を通すべきでしょう)

 

概要は以下の通りです。

風邪の予防を目的として、ポビドンヨードを用いてうがいをした群、水うがいをした群、うがいしない群で比較したところ、水うがい群は風邪発症率を下げた一方で、ポビドンヨード群とうがいしない群では風邪発症率が下がらなかった。

この理由として筆者らは、ポビドンヨードが咽頭の常在細菌叢を乱すとした過去の報告や、ポビドンヨードにより咽頭の細胞が障害されたとする過去の報告を引用している。

風邪予防目的にポビドンヨードを利用すると、効果がないばかりか害があるかもしれない、水で行うべきだ、という結論となっています。

 

ポビドンヨードを用いてうがいをすると、むしろ感染リスクが上がってしまうかもしれません。分かりませんけど。

コロナ対策としてポビドンヨードを用いたうがいを推奨していない理由がここにあります。

 

まとめ

ポビドンヨードの使用は、歯科医院での処置前1回のうがいですら、疑問視されつつあります。

ましてや一般的に、日常的に使用することは推奨されていません。

ほんのわずかなメリットがあるかもしれませんが、デメリットのほうが上回る可能性が高いでしょう。

為政者がこのような対策(対策とも言えないが)の効果を示唆することで、その発信を見た有権者が、本当に必要な対策が疎かにしてしまうおそれがあります。

口の中がきれいだと重症化しないとか、毒だしうがいでリスクを減らせる、などという与太話には耳を貸さず、専門家(分科会)の先生方の意見を参考にし、大阪府民のために確かな発信をしていただくことを願ってやみません。

 

追記

なぜ朝日新聞はマスクに関する論文の結果を記事にしなかったのでしょうか?

不思議ですねー(棒)

参考資料

 

ご質問、ご相談、間違いの指摘はこちらからお願いします

 

*1:厳密には歯科医療従事者の感染リスクが下がることで、巡り巡って患者さんの感染リスクが下がることは考えられます

歯科医院での接触感染のリスクは低いのか?

現地時間 4月5日付けで、CDC から以下のような論説が出ておりました。

Cleaning and Disinfecting Your Facility | CDC

Science Brief: SARS-CoV-2 and Surface (Fomite) Transmission for Indoor Community Environments | CDC

簡単にまとめますと以下の通りです。

内容

・一般的な生活環境において、接触感染のリスクは低く、汚染された環境表面に触れて感染を引き起こす可能性は 1/10,000 以下である

・環境表面の消毒を頑張ってもほとんど感染リスクは減らない

・ただし、手指衛生は感染リスクを減らすために重要である

・また、感染者あるいは感染が疑われる人が室内にいた場合には、環境表面を消毒する必要がある

・消毒も大切だが、洗浄も大切。洗浄が可能であればまず洗浄を行うことで 90〜99.9%、微生物レベルを低減させることができる

 

詳細は、こちらの記事も参考になさってください。

新型コロナ、接触感染のリスクは低い?「清掃は通常1日1回で十分」米CDCのガイドラインが改訂 | ハフポスト

 

なぜ接触感染のリスクは低いのか

接触感染には以下に示す、複数の要因が関係すると説明しています。

  1. 地域社会での感染率
  2. 感染者の排出するウイルス量
  3. 排出されたウイルス粒子の環境表面への付着効率
  4. ウイルスにダメージを与える環境因子
  5. 環境表面が汚染してから、人がその表面に触れるまでの時間
  6. 汚染された手から粘膜(眼、鼻、口)へのウイルス粒子の移動効率
  7. 粘膜からの感染を引き起こすのに必要なウイルス量

この中でも特に、ウイルス粒子の移動効率が悪いことが指摘されていました。

 

注意点

この論説は、表題にもある通り「Indoor Community Environment」ですから、一般的な室内に応用されるものです。

医療機関には適応されません。

 

歯科医院での接触感染は?

それでは医療機関、特に歯科医院ではどうなのでしょうか?

歯科医院での接触感染のリスクを評価した研究は、残念ながらまだありません。

(コロナ禍では主にエアロゾルに注目が集まっていましたので、エアロゾル関連の研究は多くあります。)

したがってここから先は類推(アナロジー)になりますので、その点ご注意ください。

エビデンスレベル 6 の「専門家の意見」(私が専門家なのか異論反論が非常に多くあるかと思いますが...)とお考えください。

 

唾液に含まれるウイルス

こちらの論文は非常に重要な論文ですので、一度目を通されることをお勧めします。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

おおよその内容は以下の通りです。

① 唾液腺や歯肉など、口腔粘膜には広く ACE2 や TMPRSS2 が発現していた

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ACE2:SARS-CoV-2 のレセプター

TMPRSS2:SARS-CoV-2 の感染に関わるプロテアーゼ

すなわち、口腔粘膜から感染しうる、ということです。

 

② 感染者から採取した唾液には感染力と増殖力を持つウイルスが含まれる

これは結構ポイントで、唾液中に活性のあるウイルスがあることを意味します。

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③ マスクを装着することで、唾液の飛沫が 10 倍以上減少した

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考察

歯科医院で接触感染はあり得るのか、という問いに対しては「大いにありうる」が答えとなるでしょう。

前述の論文から、SARS-CoV-2 は口腔粘膜から感染しうること、また唾液中に活性のある SARS-CoV-2 が含まれていることが分かりました。

それを踏まえて、CDC が接触感染に影響を与える因子と列挙したものを見比べてみましょう。

  1. 地域社会での感染率
  2. 感染者の排出するウイルス量
  3. 排出されたウイルス粒子の環境表面への付着効率
  4. ウイルスにダメージを与える環境因子
  5. 環境表面が汚染してから、人がその表面に触れるまでの時間
  6. 汚染された手から粘膜(眼、鼻、口)へのウイルス粒子の移動効率
  7. 粘膜からの感染を引き起こすのに必要なウイルス量

1. は状況次第ですので歯科医院にはコントロール不可能な部分です。

2. は個々の患者に依存するものですから、こちらもコントロール不可能です。

7. は残念ながらまだよく分かっていません。

 

それ以外はコントロール可能な部分です。

3. 環境表面への付着効率ですが、唾液で汚染されたグローブであちこち触れることで唾液による汚染が拡大し、ウイルスの環境表面への付着効率が高まります。

4. ウイルスにダメージを与える環境因子としては、環境表面の消毒がこれに該当します。もちろん消毒は大切ですが、唾液での汚染をなるべく起こさないような配慮も大切です。

5. 環境表面が汚染してから、人(歯科医師など)がその表面に触れる時間ですが、これは次の患者がすぐにいますから、非常に短時間と言えます。ウイルスが失活するには不十分でしょう。

6. 汚染された手から粘膜への移動効率ですが、前の患者の唾液で汚染された環境表面を触り、そのグローブで次の患者の口腔内に触れれば、移動は成立します。このときの唾液量、すなわちウイルス量は、一般生活環境の比ではないことは容易に想像できます。

コントロール可能な部分はすなわち、適切な感染予防策で対応可能である、ということです。

以上より、歯科医院では接触感染のリスクはある、少なくとも一般環境ほど小さくはないと考えることは妥当でしょう。

 

まとめ

最近、いわゆるエアロゾルによる感染リスクは高くないのではないか、とする論文が発表されています。 

www.masaomikono.com

論文の内容に若干の疑義はあるものの、これまでの歯科治療を通した感染の報告の少なさからも、これは十分ありうると思っています。

同様に接触感染も少ないかもしれませんが、接触感染は主に患者ー患者間で生じると考えれば、これまで報告がなかったことは不思議とは言えません。

そこまで保健所の調査が及んでいない(あるいは感染者が多くて対応できていない)可能性があるからです。

...まあこの話はこのくらいにしておきましょう。

 

しかし今後、ワクチンが普及して感染者が少なくなってくると、保健所の調査能力に余裕が出て、調査が綿密に行われるようになるかもしれません。(COVID-19 が積極的疫学調査の対象であり続けるかも分かりませんので何とも言えませんが...)

 

富山県でクラスターが発生したと”報告された”ワケ、として解説いたしましたが、感染対策上の不備があれば、公表される前例が出来たと考えています。 

www.masaomikono.com

油断することなく、感染予防策に取り組んでおいた方がいいのかもしれません。

未来のことですので、ご判断は読者のみなさまに委ねます。

 

院内の感染予防策を強化したい方はご相談ください

www.masaomikono.com

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待機時間について

先日、「歯科医院の換気について」と題したブログを公開いたしました。 

www.masaomikono.com

 

その中で触れた「待機時間」について、詳細をお伝えしようと思います。

 

待機時間とは

待機時間とは、患者と患者の間に、エアロゾルが沈降するために設ける時間のことです。

これが初めに話題に出たのは、昨年発表された CDC の暫定ガイドラインでした。その後 CDC のガイドラインからは削除(?)されたのですが、ADA(アメリカ歯科医師会)は待機時間が必要であるとの声明を出しています。

ADA responds to change from CDC on waiting period length

その後、イギリスのガイダンスにも待機時間が必要であるという推奨がなされ、かなり詳細に記載されました。

Rapid Review of AGPs - SDCEP

まずは、このイギリスのガイダンスの詳細を確認してみましょう。

 

Rapid Review of Aerosol Generating Procedures in Dentistry by SDCEP

サマリー

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Fallow time(待機時間と訳しました)

待機時間の目的は”いわゆるエアロゾル”による感染を予防するためです。

グループAの処置をした場合、15〜30分の待機時間が必要であり、大容量吸引やラバーダムの使用により待機時間を5分ほどは短縮できること、最低でも10分の待機時間が必要であるとしています。

また換気条件が悪ければさらに長い待機時間が必要とも推奨しています。

 

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グループAの歯科処置とは、5μm未満の微粒子を排出しうる歯科処置のことです。

以下の表にまとめられています。

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超音波スケーラー、60,000rpm以上のタービンやエンジンの使用、ピエゾサージャリー、エアーポリッシャー、3wayシリンジの水と空気同時使用がグループAの処置に該当しています。

 

フローチャート

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これらがまとまったフローチャートが示されています。

まず、換気が出来ない診療室ではグループAの処置はしてはならない、としています。

次いで、ACHが1〜5または不明、6〜9、10以上に分類されています。

ACHについてはこちらから確認してください。

www.masaomikono.com

 

さらに大容量吸引を使用したか、ラバーダムを使用したか、で細分化されています。

最後に、グループAの処置をした時間の長さが尋ねられ、5分以上か5分以下で分類され、待機時間が決定されます。

例えば、ACHが10以上であり、グループAの処置時間が5分未満であれば待機時間は10分で済みますが、ACHが1〜5で、グループAの処置時間が5分以上、ラバーダム不使用であれば25分以上必要となってしまいます。

 

他のガイダンス

正直他の国のガイダンスまで細かく見ることは出来ていません。

どなたかご存知でしたらお知らせください。

ただ、カナダでは州ごとにガイダンスが異なるようで、待機時間に関するレビュー論文が出ていました。

A Review of "Optimal Fallow Period" Guidance Across Canadian Jurisdictions

各種条件により左右されますが、13州中9州で、15〜180分の待機時間が必要である、とのガイダンスが出ているとのことです。

 

待機時間の科学的根拠

① タービンやエンジンから発生する小さな飛沫(英)

Mechanisms of Atomization from Rotary Dental Instruments and Its Mitigation

60,000rpm以下では、空気中を一定時間漂う可能性のある小さな飛沫が確認されなかった、とする結果が得られています。

この結果が、SDCEPのグループAの処置の分類に反映されています。

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② 非個室型診療室でのエアロゾルの分布(英)

蛍光色素を用いた研究です。マネキン(ファントム)の口腔内に唾液の流量と同じだけの蛍光色素を注入し、治療のデモを行い、色素の分布を観察しています。

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この研究では、対面換気の重要性が明らかになっております。

また、発生するエアロゾルの大部分は、発生から10分後までにそのほとんどが検出されており、ここから待機時間は10分必要だと結論付けています。

ただ、この10分は換気条件が良い場合に限った結果であることに注意が必要です。

 

③ 10μm未満のエアロゾルの分布(英)

Evaluating aerosol and splatter following dental procedures: Addressing new challenges for oral health care and rehabilitation

タービン、超音波スケーラー、3wayシリンジについて分析しています。

タービン>超音波スケーラー>3wayシリンジの順にエアロゾルの量が多く、分布が広いという結果になっています。

なお、コロナ前は超音波スケーラーが最もエアロゾルを発生するのではないかと考えられていましたが、最近の研究では(少なくとも私が目を通したものは)すべてタービンのほうがエアロゾル量が多いという結果になっています。

また、分布範囲はほとんどが近距離(1.5m以内)にとどまっていますが、4mほど遠隔からも検出される例がありました。

吸引については、術者が吸引するよりも、助手が吸引したほうがエアロゾル量が減少していました。4ハンドが有効だ、とするガイダンスが多いですが、その説を補強する根拠ともなっています。

10μm未満のエアロゾルは、30分後には検出されなくなっていました。

 

④ 発生するエアロゾルの粒径(英)

SARS-CoV-2: characterisation and mitigation of risks associated with aerosol generating procedures in dental practices

パーティクルカウンターという、空気中の粒子の粒径と個数をカウントする機械を用いた研究です。

発生するエアロゾルのほとんど(個数)が0.3μm未満であったとのことでした。

個数ですので、体積については分かりませんが、歯科処置はエアロゾルを発生する処置なのかどうなのか、決定していませんでしたが、この研究結果で5μm未満の粒子を発生する処置であることが確認されたと言えます。

同様の実験系(+α)を考えていたのですが...。そういう場所にいないとダメですねぇ。

またこの研究では口腔外バキュームの有用性についても示唆的な結果が得られています。

 

⑤ 機械換気に空気清浄機を併用した研究(米)

Effects of mechanical ventilation and portable air cleaner on aerosol removal from dental treatment rooms

個室タイプの診療室で、機械換気単独と機械換気に空気清浄機を併用した場合のエアロゾルの除去効率を比較した研究です。

ACHが低い診療室では空気清浄機は有効でしたが、ACHが十分に大きい診療室では効果が限定的でした。

また、ACHが大きな部屋でも、エアロゾルが95%除去されるまでに必要な時間は3〜9分という結果が出ており、待機時間は10分程度は必要であろうことが示唆される結果となっています。

 

小括

このように、待機時間が必要であることを示唆する論文が増えており、この流れは今後加速することが予想されます。

 

変わり種

一方、そもそも歯科治療で発生するエアロゾルで感染するのか?という根源的な疑問に応えようとする研究もなされています。

 

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実験系が難しく、また”いわゆるエアロゾル”というよりは飛沫だけを見ているような(そして筆者らはそれに気がついていない?)内容でした。

「感染リスクがない」ことの証明は難しいというより不可能ですが、他の対策(ワクチン等)や感染者数によって、待機時間の扱いも変わってくるかもしれません。

個人的に、この論文が待機時間の是非に影響するとは考えていません。

 

日本

日本では待機時間に触れたガイダンスはまだありません。

今後の世界の潮流がどのようになるのか、注視したいと思います。

ただ、待機時間が必要だ、という流れになった時、日本で何も準備が出来ていないとマスコミの格好の餌食となる恐れがあります。

セミナーにお招きいただいた某県の某団体様にはお伝えしましたが、議論の準備だけでもしておいたほうが良いかと思います。

今日から導入しろ、と言われても厳しいですからね。いや、導入そのものは簡単ですが、お金が保ちません。

 

追記(2021.06.15)

世界各国のガイダンスをレビューしている論文ですが、この論文によると、2020年7月の段階で、48%のガイダンスが待機時間に言及していたようです。

予想していたより多いな、という印象を受けました。

論文は最新ですが、レビューが行われたのは 1 年前ですから、最近どうなっているのかは分かりません。

 

まとめ

待機時間は今後大きなトピックスになっていく可能性があるのでは、と予想しています。

CDC や WHO が待機時間に言及するかどうか、が決め手になるのでしょうか...。

どこかで火がついた時にどう対応するか、空振りになるかもしれませんが、準備だけでもしておいたほうが良いと思います。

 

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