河野雅臣 歯科医師・博士(感染制御学)

感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。新型コロナウイルスを含む、感染対策について発信するブログです。

オンラインセミナーのご案内

来たる4月17日(土)の19:00〜、Zoomオンラインセミナーにお招きいただいています。

鹿児島県ご開業の 松下 幸誠 先生が主催されている、鹿児島県臨床歯学懇話会のセミナーに講師として招聘していただきました。

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「歯科医院における感染予防策 〜コロナワクチン普及後に向けて〜」

2月から、医療従事者が先行する形でワクチン接種が開始されました。

現在、一般的に行われている感染対策として、例えば3密回避、5つの場面回避、換気、マスク、手洗いがありますが、ワクチン普及後には一定程度緩和されることが予想されます。

 

では、歯科医院における感染予防策は、今後どうなるでしょうか?

 

将来を見据え、今何をするべきか、何を準備しておくべきか、ヒントになるような講演を準備しております。

 

特に次のような方は必見!

院内の感染対策を強化したい

新規開業を予定している

院内の改装(感染対策に関する部分)を予定している

地域の歯科医師会で主導的な役割を担っている

など...

 

ぜひご参加いただければ幸いです。

鹿児島県在住でない方もご参加いただけます。(主催者の松下先生に確認済みです)

 

参加費は2,000円!

学生さん、研修医はなんと無料です!

 

お申し込みはこちらから!

forms.gle

 

 

セミナーのご依頼はこちらから 

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【最新版】感染事例発生時チェックリスト【歯科医院向け】

令和3年4月1日現在、残念ながら第4波は避けられない状況になって参りました。

いつ何時、感染事例が発生するか分からない状況と言えます。

最新の情報を盛り込みつつ、これまでの事例の相談を経て、なるべく簡潔に、わかりやすさを重視したマニュアルとチェックリストを公開いたします。

 

マニュアルはスライドでたったの 4 ページ

チェックリストも A4 2 枚にまとめました!

 

ぜひご活用ください。

 

注意事項

利用にあたり、CC BY ND(クリエイティブコモンズ 表示 改変禁止)の条件下でお使いください。

歯科医院内での利用は全くの自由です。SNSへの投稿も自由です。

内容を改変したり、盗用したり、私の名前を消したり、本ブログ記事のリンクを明記しない形でのSNS投稿はお控えください。著作権料を請求いたします。

 

マニュアル

スライドDL版

PCで、スマホで、印刷してご利用ください。

docs.google.com

 

画像版

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チェックリスト

DL版

docs.google.com

 

画像版

スタッフが感染した場合のチェックリスト

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患者さんが感染した場合のチェックリスト

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まとめ

第4波は相当厳しいものになると予想されます。

くれぐれもご自愛くださいませ。

感染事例発生時のサポートをご希望の方は、下記よりお気軽にご連絡ください。 

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口腔ケアは COVID-19 の重症化を予防するか

先日、COVID-19 と歯周病の関係に関する文献を紹介いたしました。

 


結論としては、「まだよく分からない」というものでしたが、1ヶ月ほど経過しました。

その後、気になる文献がありましたので、ご紹介したいと思います。

 

COVID-19 と細菌感染(共感染・二次感染)

COVID-19 の共感染と二次感染を対象としたリビング迅速レビューとメタアナリシスの論文を紹介します。

Bacterial co-infection and secondary infection in patients with COVID-19: a living rapid review and meta-analysis

 

  1. COVID-19 の重症化には細菌感染が関与している
  2. (専門的)口腔ケアで誤嚥性肺炎や人工呼吸器関連肺炎(VAP)を予防できる
  3. (=1+2)口腔ケアで COVID-19 の重症化を予防できる(かもしれない)

という論説を目にすることがありますが、実際どの程度、COVID-19 の重症化に細菌感染が関与しているのでしょうか?

研究概要

・「細菌感染」は、a)共感染、b)二次感染と定義した

・呼吸器検体または血液培養検体から細菌が検出されたものだけを細菌感染と定義した

・COVID-19 患者と細菌感染に関する論文をレビュー、24 の論文が分析対象となった

・24 の論文は全てレトロスペクティブ、21 はアジア(中国、シンガポール、タイ)

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24 の論文の概要
結果

・共感染が認められた患者 3.5 %(95% CI: 0.4-6.7)、I^2 = 57 %

・二次感染が認められた患者 14.3 %(95% CI: 9.6-18.9)、I^2 = 98 %

・すべての細菌感染患者 6.9 %(95% CI: 4.3-9.5)、I^2 = 94 %

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研究ごとのバラツキが大きいですね

・COVID-19 の重症度の推定値で層別化すると、重症患者における細菌感染は 8.1 %(95% CI: 2.3-13.8)、I^2 = 45% であった

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・いずれも異質性(研究間のばらつき)が大きい

・大多数の患者が抗菌薬を投与されていた:71.8%(95% CI: 56.1-87.7)

結論

COVID-19 患者における細菌感染(共感染、二次感染)の頻度は低い

・抗菌薬の漫然とした投与は効果が期待できない

・耐性菌発生の恐れもあり、正当化されない

(私の)考察

抗菌薬の漫然とした投与はやめるべきだ、というのが筆者らの主張です。

重症化には細菌感染よりも、別の要因の影響が大きいことが示唆される結果でした。

 

アジスロマイシンの投与

上述した論文と関連して、アジスロマイシンの投与が COVID-19 のコミニュティレベルでの発症や重症化を予防するか、を検証した無作為比較試験(PRINCIPLE study)を紹介します。

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)00461-X/fulltext

 

なぜアジスロマイシン?

アジスロマイシンは furin(ACE2 を切断し、SARS-CoV-2の細胞内への侵入を促進すると考えられている酵素:主たる酵素は TMPRSS2)のレベルを低下させる可能性があるため、理論上は感染予防効果や発症予防効果があると考えられていました。
 
またアジスロマイシンは IL-6 などの炎症性サイトカインのレベルを低下させるため、理論上は重症化予防効果があると考えられていました。
 
こうした背景からでしょうか、少し前のことですが、「緊急時なのでアジスロマイシンを内服してコロナ予防」のような歯科医院の情報発信を見かけたことがありました。
 
しかしその後の研究で、入院中の患者では、アジスロマイシンは単独あるいはクロロキンとの併用でも有効性は確認されなかった、という報告[1-3]が相次ぎ、そうした発信はあまり見かけなくなりました。
1)Lancet 2021; 397: 605–12. 2)N Engl J Med 2020; 383: 2041–52. 3)Lancet 2020; 396: 959–67.
 
この研究は、コミュニティレベルでのアジスロマイシンの有効性について検討するために行われています(=無症状者や自宅療養の軽症例、あるいは感染予防を期待するための使用を想定している)。
 
研究概要
《方法》
・イギリスでの無作為比較試験
・65 歳以上、または基礎疾患のある 50 歳以上の COVID-19 患者が対象
・通常ケア群、通常ケア+アジスロマイシン併用群
・アジスロマイシンは 500mg、分 1、3 日間投与
結果
・primary outcome:初回回復までの期間、入院・死亡、いずれも統計学的有意差なし
・secondary outcome:回復が持続した期間、症状の悪化、症状悪化の持続、症状悪化期間、自覚症状、ウェルビーイング指標、酸素投与の必要性、人工呼吸の必要性、ICU入院、いずれも統計学的有意差なし
結論
・アジスロマイシンを COVID-19 発症予防、あるいは重症化予防を目的に、コミュニティレベルで日常的に投与することは正当化されない
・効果のない対策を実施することは、患者に「抗菌薬が効果があるんだ」と誤った認識を与えることになり、公衆衛生上の懸念となる
・薬剤耐性菌の出現のリスクを考慮する必要がある
(私の)考察
・理論上あり得ても実臨床では意味がない、ということはよくありますが、これもその好例と言えます
・「緊急時だから効果がありそうなら何でもする(何でも許される)」ではなく「緊急時だからこそ確かなものを徹底」が重要ですね
・効果が確かなものを(特に一般大衆に向けて発信する時は)推奨するようにしましょう
・要するに、3密回避、5つの場面回避、ソーシャルディスタンス、マスク、手洗いなど、世界中の専門機関が推奨している感染予防策に匹敵する、あるいは上回る度合いの感染予防効果がなければ推奨には値しない、ということです
 

まとめ

今回はメタアナリシスと無作為比較試験という、エビデンスレベルの高い研究結果をご紹介いたしました。
横断研究等だけで判断せざるを得ないことも多々ありますが、Fig2.やFig3. の Wang L. 2020. のフォレストプロットをご覧いただければ分かる通り、メタアナリシスの結果とはかけ離れた数字が出ています。
もし Wang L. 2020. の論文だけを根拠に情報発信していた場合、ミスリードをしてしまうこともあります。
私が先日紹介した COVID-19 と歯周病の関係のブログで「まだ分からない」としたのも、これが理由です。
 
このことからも分かるように、一般大衆への情報発信の根拠は、可能な限りエビデンスレベルの高いものとするべきでしょう*1
「効果がありそうだから何でも推奨する!」では一般の方々は疲弊してしまい、本当に大切な対策が疎かになってしまう恐れがあります(公衆衛生上の懸念)。
 
プロ同士の会話はもちろん、個々の患者さんへの EBM においてはエビデンスレベルの低い*2ものを応用せざるを得ないことは良くあります。
従ってエビデンスレベルの低い研究に価値がない、ということを言いたいわけではありません。むしろ逆です。そうした研究の積み上げがあってこそのメタアナリシスですから。
 
さて本題に戻りますが、口腔ケアは COVID-19 の重症化を予防するか?という観点で今回ご紹介した論文を読んでみます。
それについては結局、「まだ分からない」です。
ただ、COVID-19 患者の細菌感染の頻度が、そもそも高くありませんでした。
従って、口腔ケアが COVID-19 の重症化予防に寄与する度合いはそこまで大きくないことが予想されます。
 
今回ご紹介した、2つのエビデンスレベルの高い論文をもとに、一般の方々への情報発信について考えていただくきっかけになればうれしく思います。
 
念のため申し上げておきますが、私は口腔ケアに価値がない、という主張をしているのではありません。
口腔ケアには”もともと”素晴らしい価値があります。
呼吸器疾患を有した患者に(専門的)口腔ケアを提供することは、患者の QOL 向上・維持に不可欠であることは周知の事実です。
従って、歯科関係者はこれまで以上に COVID-19 患者に対して、専門的口腔ケアを積極的に提供するべきだと思います。
 

*1:専門家の意見(エビデンスレベルが低い)が意外とバチッと決まることもあるのですが、それはその専門家の意見を正しく評価して、患者や現場に適用できるかどうか正しく判断できるレベルの専門家の内輪に留めたほうがいいと思います

*2:価値が低いという意味ではなく、また、正しくないという意味でもありません

ワクチンと歯科医療

いよいよ日本にもワクチンが届けられ、2 月の第 3 週中ごろには、一部の医療従事者から接種が始まるようです。 

コロナワクチンが日本に到着 - Yahoo!ニュース

 

これまでの、先が見えない状況から大きな転換があることは間違いないでしょう。

とても嬉しいことです。

人口の何割が接種したらどうなるのか、現在の生活や仕事上の制約がどれほど解禁されるのか、など、まだまだ未知数なことは多いですが、なるべく多くの方が接種することが望まれます。

Challenges in creating herd immunity to SARS-CoV-2 infection by mass vaccination

 

しかし、それを妨げる恐れのある、ワクチンの有害事象や副反応に関する偏った報道が散見されています。

 

このように、感染症やワクチンに関する誤った報道や情報発信は、個々人の自己決定権を侵害し、公衆衛生の推進の妨げになり、最悪の場合、人を殺します。

この点、我々、歯科医療従事者も十分に気を付ける必要があります。

 

今後、歯科医療従事者に求められること

今後、医療従事者、高齢者等の基礎疾患を有する方々、そして一般住民、とワクチンを接種する人がどんどん増えていきます。

すると、ワクチンを接種した経験のある患者さんが歯科医院を受診をするようになります。

接種してから間もない患者さんが受診することもあり得るでしょう。

その時、何らかの口腔内の疾患を見つけた場合、どのように対処したらよいでしょうか?

言うまでもありませんが、「ワクチン接種後に症状が出たのだから、これはワクチンのせいだ」と短絡的に考えてはいけません。

もちろん、「いやぁー、大丈夫でしょ」と適当にあしらっていいわけでもありません。

正しい情報と知識を習得し、患者さんや社会全体の不利益にならない対応を取ることが求められます。

 

ワクチンの有害事象、副反応とは

有害事象:ワクチン接種後に生じた、好ましくない反応のこと。因果関係の有無は問わない。

副反応:ワクチン接種後に生じた、好ましくない反応のうち、因果関係が判明しているもの。

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有害事象と副反応の関係 因果関係の有無

 

因果関係とは?

因果関係とは、AとBが原因と結果の関係にあることを言います。

科学(医学)において因果関係を証明するためには、一般的にランダム化比較試験*1を行います。

したがって、個人において生じた事象について、因果関係を証明することは原則不可能です*2。ここテストに出ます。

 

有害事象は、ワクチン接種後に生じた好ましくない事象は何でも当てはまります。

ワクチンを接種して、建物から出たところで雷に撃たれた、ということも有害事象です。

何だそれ、とお考えになるでしょうけど、因果関係は問わないのです。

 

新型コロナウイルスワクチンのランダム化比較試験

新型コロナウイルスワクチンについても、当然ランダム化比較試験が行われています。

 

⑴ ファイザー社製のワクチン(BNT162b2)のランダム化比較試験

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2034577

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局所の反応

接種したところの痛みは比較的多く認められています。プラセボと比較しても明らかに多く、この痛みは副反応と考えてよさそうです。

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全身の反応

1 回目よりも 2 回目のほうが強い反応が見られるようです。

倦怠感、頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛あたりは副反応と考えられます。

 

なお有効性については、発症リスクは約 95% 減、重症化リスクは約 89% 減という結果が出ています。すごい成績ですね。

 

 

⑵ モデルナ社製のワクチン(mRNA-1273)のランダム化比較試験

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2035389

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上段:局所の反応 下段:全身の反応

局所は痛み、全身では頭痛、倦怠感、筋肉痛、関節痛、悪寒副反応と考えられる差が出ています。

 

なお有効性については、発症リスクは約 94% 減、重症化リスクは約 100% 減という結果が出ています。こっちもすごいですね。

 

いずれのワクチンも口腔内の有害事象、副反応は報告されていませんでした。

今後歯科を含め、ワクチン接種後のガイドラインなども整備されてくると思いますが、接種後は数日間、頭痛や倦怠感、筋肉痛、関節痛、悪寒を中心とした副反応が出る可能性は十分考えられます。

我々歯科医療従事者も接種の順番が回ってきますが、接種後数日は休める体制を整えておくことが望ましいかと思われます。

 

大規模接種開始後の有害事象

これまでの治験や、一般住民への接種により副反応に関する知見も増えてまいりました。

CDC からは、有害事象とアナフィラキシーに関するレポートが出されています。

Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine — United States, December 14–23, 2020 | MMWR


レポート発表時までに 1,893,360 例のワクチン接種が行われており、4,393 例(0.2%)の有害事象がワクチン有害事象報告システム(VAERS)に登録されていたとのことです。

そのうちアナフィラキシーを含む重篤なアレルギー反応の可能性がある症例として、175 件の症例が報告されていました。

アナフィラキシーと判定された症例は 21 例(1,000,000回あたり 11.1 回)で、そのうち 17 例はアレルギーやアレルギー反応の既往歴のある人で、その 17 例中 7 例はアナフィラキシーの既往がありました。

 

アナフィラキシーと判定された 21 例の詳細が以下の表にまとめられています。

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5 例に舌や口唇の腫脹が認められたとのことです。

アナフィラキシーであれば、口腔内にも症状が認められています。

 

口腔内に症状が出た患者が受診した!どうしたらいいの?

接種から間もない場合で、かつアナフィラキシーが疑われるのであれば、エピペン®︎を筋注し、救急病院へ搬送します。難しいことは考えなくていいと思います*3

 

接種からある程度経過していた場合や、接種直後であってもアナフィラキシーが疑われない場合、慎重さが求められます。

 

「うーん、これは副反応かもしれないから、接種した病院に行ってください」

これは患者さんを不安にさせる好ましくない対応です。

 

以下のような、事実に基づく説明をするように心がけましょう。

「これまで世界で 200 万人近く接種されていますが、アレルギー反応を除き、口の中にワクチンと関連した症状が出た、という報告はありません*4。なので、この症状がワクチンと関係している(=副反応である)可能性は極めて低いと考えられます。
ただ、あなたの口の中に症状がある(=有害事象がある)ことは事実なので、これは関係機関に報告*します。関係がなさそうでも報告するように法律で定められているのでね。
症状の経過はこちらでも観察しますが、接種した病院の先生にも診てもらいましょう。
こちらから直接電話で連絡しておきますがよろしいですか?紹介状も書きますから必ず受診してくださいね。**

 

* 有害事象の報告

有害事象と思われる症状を確認した場合、予防接種法に基づき、PMDA(医薬品医療機器総合機構)に報告しなければなりません。

 

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表題は「副反応疑い報告」とされていますが、有害事象も対象です。

「雷に撃たれた」も報告対象です。

報告の方法はこれまで紙運用でしたが、オンライン化を急いでいるようです。これはそのうちアナウンスがあるでしょう。

個人レベルでは因果関係は分かりませんが、複数の報告があれば、ワクチンの安全な運用を支える情報になるかもしれません。我々も大いに貢献しましょう。

 

** 着実に専門家につなげる

確実に患者さんを専門家に診察してもらう必要があります。

ここで、患者さんが”おかしな医療機関*5”に自己判断で受診してしまうと、その患者さんはまともなフォローが受けられなくなってしまう恐れがあります。

反ワクチン派に捕捉された場合、広告塔として利用されてしまうかもしれません。

患者さんにとっても、社会全体にとっても大きな損失を被ることになってしまいます。

 

歯科医療従事者がやってはいけないこと

・不安を感じている患者さんにおざなりな対応をすること

患者さんが”おかしな医療機関”に取り込まれてしまう恐れがあります。

 

・口腔内症状の写真を「これが副反応だ!」「副反応かもしれない」などといって SNS に投稿すること

喜び勇んで拡散する勢力がいます。

 

・有害事象を PMDA へ報告したことを SNS に投稿すること

隠蔽するなーとか訳の分からない攻撃を受ける恐れがあります。

 

いずれも、ワクチンへの正しい理解と、正しい情報に基づく自己決定権を妨げる恐れがあり、「公衆衛生の向上および増進に寄与すること」とは逆の結果をもたらしてしまうかもしれません。

このあたりのガイドライン等も、今後整備されてくると思いますが、今から十分に気をつけてください。

 

 

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*1:とある介入を行う集団と、行わない集団のアウトカムを比較して因果関係の有無を明らかにする研究手法です。有病率が低い場合にはこの限りではありません。また横断研究から因果推論をすることも可能です。

*2:タイムマシーンがあれば可能です。

*3:異論はあると思いますが、この点を議論するつもりはありませんのであしからず...

*4:説明の段階での人数や報告に応じて変更する

*5:反ワクチン、ホメオパシー、高濃度ビタ○ンCなど...

COVID-19 と歯周病の関係

2月1日に Journal of Clinical Periodontology から 「Association between periodontitis and severity of COVID-19 infection: a case-control study」と題した論文がカタールの研究チームから発表されました。

Association between periodontitis and severity of COVID-19 infection: a case-control study

 

直訳すれば「歯周病*1と COVID-19 の重症度との関連:症例対照研究」といったところでしょうか。

これまで COVID-19 と歯周病における疫学研究は(私の知る限り)存在しませんでした。

どのような内容なのかさっそく見てみましょう。

 

Introduction(緒言)

COVID-19

・COVID-19 のほとんどが軽症であるが、約 14% が入院と酸素投与が必要になり、約 5% が ICU に入院し、約 2% が死亡する。

・COVID-19 の重症例では過剰な炎症性サイトカインが認められる。IL-6 や CRP、D-ダイマー、フェリチンの上昇が認められる。

・COVID-19 の重症度は基礎疾患(高血圧、糖尿病、心疾患)や高齢、肥満と関連しているが、十分には解明されていない。

歯周病

・歯周病は、糖尿病や心疾患等の非感染性疾患(NCD)との関連が認められている。

・歯周病は、喫煙、ストレス、不摂生、血糖値、遺伝要因、社会経済要因など、他のNCDとリスク因子が共通している。

・慢性の歯周病は全身の炎症を引き起こし、血清レベルにおけるTNF-α、IL-1β、IL-4、IL-6、IL-10、CRP、フェリチンの上昇をもたらす。

・歯周病治療は2型糖尿病の改善につながることを示す証拠がある。

COVID-19と歯周病

歯周病とCOVID-19は多くの疾患と共通して関連があるにもかかわらず、両者の関連を示す証拠はこれまで存在していなかった。

歯周病とCOVID-19がどの程度関連しているか推定することが、本研究の目的である。

小括

これまで「歯周病とCOVID-19の関連があるかもしれない」という仮説の提唱はなされていましたが、疫学的な根拠はありませんでした。

Aspiration of periodontopathic bacteria due to poor oral hygiene potentially contributes to the aggravation of COVID-19

 

NCD ⇄ 歯周病等の関連

NCD ⇄ COVID-19 等の関連

 

それぞれ独立して根拠は示されていましたので、A⇄B かつ A⇄C だから B⇄C というアナロジー(類推)が展開されていました。

さすがにこれまで「歯周病治療をすると COVID-19 の重症化を予防できる」という主張をしていた方はいないと思いますが、初の疫学研究と言える本論文で、どの程度関連が示されたのか、読み進めてみましょう。

Methods(方法)

研究対象

・データベース研究。データは国立ハマド総合病院の電子カルテから抽出。

・対象期間は 2020 年 2 月 27 日〜 7 月 31 日入院分、観察期間は 8 月 31 日まで。

・国立ハマド総合病院は歯科医療を含む医療をカタール全土に展開している。14 の病院を持ち、病床数の 85% を占める。

・選択基準は PCR 検査が 2 回陽性で COVID-19 と診断された、過去 1 年間に少なくとも 1 回の歯科受診とエックス線撮影の記録が残っている 18 歳以上の成人。

研究デザイン

・対象患者:COVID-19 による死亡例、ICU への入院例、人工呼吸器を必要とした症例

・対照群:COVID-19 に罹患したが合併症がなく退院した症例

・変数:歯周病

・交絡因子:人口統計学的属性(年齢、性別)、基礎疾患

歯周病の評価方法

・電子カルテに残っている臼歯部の咬翼法で撮影されたデンタルエックス線写真、またはパノラマエックス線写真を用いた。

・セメントエナメル境と歯根の全長を参考にして歯間部の骨欠損状態を分類した。

・分類は以下の通り。

健康・初期(stage 0〜1):咬翼法では 2mm 以下、パノラマで歯根 1/3 までの骨欠損

歯周病(stage 2〜4):咬翼法では 2mm 以上、パノラマで歯根 1/3 以上の骨欠損

・2 本以上の連続していない隣接歯に認められた場合に歯周炎と定義した。

交絡因子について

・性別、年齢、BMI、喫煙歴、基礎疾患の情報は電子カルテから抽出。

・D-ダイマー、CRP、HbA1c、ビタミンD、白血球数、リンパ球数も電子カルテから抽出。

・基礎疾患は ICD-10 のコードが付与されているものを抽出(それぞれの重症度は関係なし)。

・BMIは、太り過ぎ/肥満(BMI≧25)と適正/やせすぎ(BMI≦25)の2値変数。

・喫煙は、現在/過去喫煙歴ありとなしの 2 値変数。

・その他の慢性疾患はそれぞれの有無を計算して「comorbidity」という変数を設定、0〜7 の値を付与、さらに 0、1、2 以上にカテゴライズした(順序変数)。

サンプルサイズとデータ分析について

・ロジスティック回帰分析で検出力 80% を達成するためのサンプルサイズは、最小 4 つの予測因子、expected R は 0.3(効果量(r)のことか?)、有意水準 α=0.05 とした場合、 n=320 であった。

気になるポイント

⑴ カタールの医療体制

カタールの医療体制について見てみましょう。

世界の医療事情 カタール | 外務省

「外務省HP 世界の医療情報」より

最新の設備を有する国立ハマド総合病院がありますが、賃金の安い国からの医師・看護師の雇用が多いため、医療水準には若干の問題が残っており、重篤な疾患では欧州先進国での加療が望ましいです。

一般的疾患で受診する必要があれば、最新の設備と医療水準が期待できる私立病院の方が快適で安心だと思われます。

ただ、転落事故・交通事故など警察の介入がある外傷の場合は国立病院で診断をうけてから、医療機関を選択するシステムになっています。

また、重度外傷、狭心症・心筋梗塞、脳血管障害など重篤な疾患は国立病院で治療されます。 

本研究の場は、国立ハマド総合病院でした。残念ながら、医療水準は高くはないようです。

よって、国立ハマド総合病院に入院した COVID-19 患者の死亡率は日本よりも高い可能性があります。

本研究で得られた COVID-19 の死亡と歯周病との関連に関する結果はカタールの医療体制を反映したものであり、日本に適用する場合はそこを割り引いて考える必要があります。

(重症化率は...この時期にデキサメタゾンがルーチンで使われていたのか分からないので、ちょっと何とも言えません。)

なお、国民の医療費は無料だそうです。(プライベートクリニックはどうでしょうか?)

⑵ 歯周病の評価

エックス線所見における骨欠損を評価基準としています。

したがって COVID-19 療養中にアクティブな炎症があったかどうかは不明。歯周病の既往かもしれません。

エックス線所見だけで歯周炎の重症度を分類(診断ではなく)する、という研究デザインが妥当であるかどうか、は歯周病の専門の先生にお尋ねしたいところ。

ただこれはデータベース研究の限界なのかもしれません*2

例えば歯周検査の結果は電カルでなく紙で管理していた、あるいは電カルとは別のシステムで管理していた、などの制限があり、CAL や PD、または CPI などの評価情報が得られなかったため、止むを得ずエックス線所見を用いたのかもしれません。

とにかく、筆者らが採用したこの分類方法で、個々の患者の歯周病の実態を把握できている!と、全幅の信頼を持つわけにはいかないことは確かです。

⑶ 交絡因子について

糖尿病、肥満、喫煙以外の基礎疾患はひとまとめに変数化されている。

それぞれ独立して解析すると必要症例数が増えるため、こうしたのだと思いますが...。

この変数が妥当であるかどうか、疑問が残ります

⑷ 対象患者

歯科の受診歴があり、かつエックス線検査を含むカルテ情報があることが選択基準となっています。ここで言う受診歴は、国立ハマド総合病院の受診歴です。

前述の通り、国立ハマド総合病院の医療水準は高くないため、普段の歯科治療はプライベートクリニックに通院している可能性も考えられます。この場合、カルテ情報がないのは当然です。

通常、歯科の受診歴がある人だけを抽出すると、患者群の歯周病の有病率は下がるはずですが、カタールの場合はそうではないかもしれません*3

同様に、他の基礎疾患についても普段から国立病院に通院しているのか、プライベートクリニックに通院しているのか、によって抽出漏れがあるかもしれません。

国立ハマド総合病院の電子カルテに歯科情報と基礎疾患の情報が両方存在する患者、すなわち本研究の対象者の多くは貧困層なのではないでしょうか?

したがって本研究の標本が母集団を反映しているか、という点には疑問が残ります。

カタールの医療情勢に詳しい方がいらっしゃいましたらご教授ください。

 

Results(結果)

・COVID-19 に罹患し、歯科のカルテ情報が存在した 568 人が分析対象となった。

・40 人が合併症あり、528 人が合併症なし。

・258 人が歯周病あり、310 人が歯周病なし。

・歯周病がある COVID-19 患者において...(Table 3)

重症化   aOR = 3.67 [1.46 - 9.27]

死亡    aOR = 8.81 [1.00 - 77.7]

ICU入院   aOR = 3.54 [1.39 - 9.05]

人工呼吸器 aOR = 4.57 [1.19 - 17.4]

f:id:masaomikono:20210206105242p:plain

上記の調整後オッズ比が得られています。

この結果から言えることは、

「COVID-19 に感染してカタール国立ハマド総合病院に入院した患者のうち、エックス線による評価で歯間部の骨欠損が2歯以上に認められたカタール在住の18歳以上の成人は、そうでないカタール在住の18歳以上の成人と比較したときの重症化のオッズが 3.67 (信頼区間は 1.46 - 9.27)であった」です(死亡、ICU入院、人工呼吸も同じような表現になります)。

決して「歯周病だと 3.67 倍コロナが重症化しやすい*4」ではありません。

 

気になるポイント

⑴ 死亡率と重症化率

Introduction にもあった通り、COVID-19 の死亡率は約 2% 、重症化率は約 14% ですが、本研究の対象となった COVID-19 患者群の死亡率は 14 / 568 = 2.5% 、重症化率は 40 / 568 = 7.0%です。

重症化率の低さが目立ちます。誤差と言える範囲でしょうか...?

合併症なしの 528 人の中にはかなりの数の偽陽性者がいたのであれば、重症化率・死亡率ともに過小評価されていたことになります。

仮に歯周病群と非歯周病群ともに同率で合併症なし群が減少した場合、オッズ比に与える影響は軽微ですが、パワー(検出力)が不足して信頼区間が大きくなります。

では実際に偽陽性者が多数いたのか、検証してみたいと思います。

⑵ 偽陽性の可能性

ちなみに人口100万人あたりの感染者数 / 死者数(死亡率)は、本研究の調査最終日である2020年8月31日時点で、日本:540.8 人 / 10.3 人(1.90%)、カタール:41227.2 人 / 68.4 人(0.165%)でした。

人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【世界・国別】

人口あたりの新型コロナウイルス死者数の推移【世界・国別】

Introduction にもあった通り、COVID-19 の死亡率は約 2% とされています。

カタールの死亡率は不自然に低いですね。

ここで、感染者数の中に大量の偽陽性者がいるのではないか?と考えられます。

偽陽性は有病率が低い集団に検査をした場合に多く出ます。

例えば、感度 70%、特異度 99.9% の検査の場合、有病率 1% であれば陽性的中率は 87.6% ですが、有病率 0.1% であれば陽性的中率は41.7% と下がります。

詳しくはこちら↓

実際にカタールでどのような検査体制が敷かれているのかは分かりませんが、以下の記事では検査体制を拡充している様子が見て取れます。

カタール、高い感染率 中東初のサッカーW杯に懸念 - 産経ニュース

カタールは MERS を経験しているので、国内の PCR 検査体制が充実していたのかもしれません。そこで PCR 検査を大量に実施し、大量の偽陽性を出していたのでしょうか?

⑶ PCR 検査が 2 回陽性だった患者が研究対象である理由

本研究の対象となった COVID-19 患者は PCR 検査で 2 回陽性となった患者です。

2 回検査をするとどうなるか、考えてみます。

COVID-19 の有病率が 0.1% のカタール国民 1,000,000 人を対象に、感度 70%、特異度 99.9% のPCR検査を行ったと仮定します。

1 回目の PCR 検査では、1,699 人の検査陽性者が確認されますが、そのうちの 700 人が真の陽性者、残りの 999 人は偽陽性者です。陽性的中率は 41.7% です。

そこで 1 回目の検査で陽性であった 1,699 人にもう一度検査をします。ここでの有病率は 41.7% です。すると、真陽性者は 496 人、偽陽性者が 1 人、偽陰性者が 212.5 人、真陰性者が 989.5 人となります。

2 回の検査を合計すると、真陽性者は 496 人、偽陽性者が 1 人、偽陰性者が 512.5 人、真陰性者が 998990.5 人となりました。

よって、本研究の対象者に偽陽性者が含まれている可能性は低いことが予想されます。

逆に偽陰性者が 512.5 人も出てしまい、人々にかりそめの安心を与えてしまうため、公衆衛生の観点からは無差別大量検査はふさわしくないことが分かります。

⑷ カタールの感染者と本研究の対象者

カタールの感染者数である 41227.2人/ 100 万人には偽陽性者が多く、死亡率が過小評価されている可能性がある一方、本研究の対象者 568 人は偽陽性者が少なく、死亡率はおおよそ信頼できる数字であることが分かりました。

「 2 回検査陽性」は公衆衛生的にはマズい方法ですが、本研究においてはパワー不足を回避する役割を担っていると言えそうです。

その一方、重症化率が低い(7%)ことの疑問が依然として残ります。 

 

 

Discussion, 特に Limitation(限界)

本研究の限界として筆者らは2点挙げていました。

・因果関係には言及していない。

・歯周病の診断精度に限界がある。

因果関係

ケースコントロールスタディ(症例対照研究)なので当然ですね。

繰り返しになりますが、本研究の結果をもってして、

「歯周病だとコロナになったときに ICU 入院するリスクが 3.54 倍になる」

とは言ってはいけません。

歯周病の診断精度

まさにここが本研究の最大のウィークポイントだと思います。

私個人的には、データベース研究という特性上やむを得ない、と理解しています。

これは、論文を解釈する読み手のリテラシーが問われる、ということでいいんじゃないでしょうか?

個人的な疑問なのですが、大規模疫学調査に適用できる歯周病の評価方法(簡便、安価、ほどよい感度と特異度、侵襲度が低い)って何かあるんでしょうか?

ご存知の方いらっしゃいましたらご教授いただければ幸いです。

論文に書いていない Limitation

・カタールの医療体制、特に国立病院の医療水準が高くないこと

・複数の基礎疾患(交絡因子)を十把一絡げにまとめて変数化していることの妥当性

・研究対象者の属性(貧困層中心か?)

・カタールの COVID-19 有病率が高いので、本研究のオッズ比はリスク比とは近似しないと考えられる(リスクが増える、○倍になる、という表現はダメ)

 

まとめ

多くの限界、疑問点があるなかで、COVID-19 と歯周病の関係に関する初の疫学研究を発表してくれた筆者らには、敬意を表し、大いに感謝申し上げたいと思います。

ただ、いくつかの限界や疑問点が解消されたとき、信頼区間が広く、1に近いところに下限値がありますので、結果がひっくり返って有意差なし*5、となることも十分ありえると思います。

 

私の結論はこんな感じです。

「COVID-19 に感染して医療水準が日本より低いと考えられるカタール国立ハマド総合病院に入院した患者のうち、歯周病の状態を正しく評価しているとは思えないけど研究デザイン上やむを得ない方法であるエックス線による評価で歯間部の骨欠損が2歯以上に認められたカタール在住の18歳以上の(おそらく貧困層の)成人は、そうでないカタール在住の18歳以上の(おそらく貧困層の)成人と比較したときの重症化のオッズが 3.67 (信頼区間は 1.46 - 9.27)であったけど、うーん、正直まだ何とも言えないよねぇ、関係はあっても不思議じゃないんだけどねぇ。*6

 

3回目ですが、この結果をもってして、

「歯周病だとコロナになると 8.81倍 死亡しやすい」

「歯周病だとコロナの死亡リスクが 8.81 倍になる」

とは決して言ってはいけません。

 

また、すでにコロナ対策に疲弊している国民(患者)に対して「可能性がある」という一点で「歯磨きを頑張りましょう」などの声かけはしないほうがいいと思っています。

すでに効果が分かっている対策、すでに効果がはっきりしている対策、3密回避、5つの場面回避、換気、手洗い、マスクを徹底するよう呼びかけましょう。

これらに匹敵する効果があるのなら言ってもいいと思いますが、それはまだ示されていませんから。

 

口腔ケアと COVID-19 についてはこちらの続報も是非お読みください。

  

もし今後、歯周病が COVID-19 の重症化リスク因子、死亡リスク因子であることが明らかになった場合、または強く疑われることになった場合、我々歯科医療従事者は堂々と、COVID-19 患者のもとに赴き、歯周治療や口腔ケアを提供できるようになりますね。

そうなったときに慌てないよう、今から準備をしておきましょう。

 

ご質問やご相談はこちらからお願いします ↓

www.masaomikono.com 

www.masaomikono.com

 

おまけ

たぶん今後、「言ってはいけない」ワードを見出しにした報道が出てくるんじゃないかと思います。

今からすでに憂鬱です。どうにかならんもんですかねぇ。

2021年3月30日追記

悪い予感が的中、どころか国会質疑まで行ってしまっていました。。。

「8倍」って言ってしまってますね。。。

www.iza.ne.jp

f:id:masaomikono:20210330153055p:plain

魚拓として

残念ながら EBPM とはならないと思います。

山田議員は歯科医師ではないので無理もないと思いますが、そうであれば他の歯科医師の議員に質疑をしてもらってはいかがでしょうか?このような間違いがなくなると思います。

 

疑問(というか分からないところ...)

A priori sample size calculation for logistic regression was used to determine the target sample size. For a minimum of 4 predictors, an expected R of 0.3, and a significance level set at α=0.05, a minimum sample size of n=320 was determined to be needed to achieve an 80% power.

Methods にサンプルサイズの計算方法が示されています。

この expected R は効果量のことでしょうか?

この通り、ロジスティック回帰分析のサンプルサイズを計算すると...

f:id:masaomikono:20210206162011p:plainFree A-priori Sample Size Calculator for Multiple Regression - Free Statistics Calculators

45 になるんですよね...。

Predictor が 4 なら 4 × 10 = 40 < 45 なので足りていますが、交絡因子はそれ以上ありますね...。

まぁそういう前提で読み手が解釈すれば良い、という編集長の判断なのでしょうか?

うーん、分かりません。お詳しい方いらっしゃいましたらご教授いただければ幸いです。

2021年3月30日追記

逆に重症者が40人だったので、交絡因子を4つにした、のかもしれません。

そうであれば、合併症を十把一絡げにした不自然さも納得です。 

*1:この論文における ”periodontitis” が、研究デザインの観点から歯周炎を指すと言えるのか疑問だったので歯周病と表記することにしました。

*2:日本で同じことをやろうと思うとさらに高い壁にぶち当たると思われます。
NDB(≒レセプト) には歯周検査の情報はない。エックス線写真もない。P 病名が付いているから歯周病、ついていないから歯周病でない、とは言えない(言っちゃダメ)。
しかも COVID-19 の治療は公費負担だから NDB に搭載されていないかもしれない。
おそらく日本では、病院単位ならともかく、COVID-19 と歯周病の関係をデータベース研究することはできない。たぶん。知らんけど。
したがってこの論文の歯周病の評価方法に日本の歯科医師が「こんな評価方法じゃダメだろwww何だよこれwww中東の笛かよwww」みたいにケチをつけるのはちょっと違うかなぁと...。少なくとも私にはできません。

*3:ただし、仮に歯周病群が増加し、非歯周病群が減少し、重症化率や死亡率に影響がなかった場合、オッズ比に与える影響は軽微になるので、あまり考えなくてもいいかもしれませんね。

*4:これを言ってしまうと...

*5:有意差なし、は関連なし、を意味するものではありません。

*6:「ずいぶんひねくれたヤツだなぁ」と思われてしまっているかもしれませんが、論文というものは得てしてこういうもんですよね。なかなか 1 本で世界を変えるような論文はお目にかかれませんし、書くこともできません(お前が言うな)。

コロナ舌??????????

2021年1月28日、テレビ朝日系列各局で放送されている ANN ニュースで、『”コロナ舌”症状は...感染初期に異常』というテロップとともに、以下のような報道がなされました。

新型コロナが引き起こす身体の異常が次々発覚(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース

以下、記事からの引用です。

スペインの研究チームが感染初期の兆候として「コロナ舌」と呼ばれる異常が発生する事があるとした報告書をまとめました。
どんな症状なのでしょうか。

舌にできた大きな斑点。
これは、新型コロナウイルスによる体の異常だといいます。

確認されたのはスペイン。
世界各地で“コロナ舌”と報じられています。

スペインの研究チームが新型コロナウイルスの 304 人の感染者を調査すると、感染者の 4 人中 1 人が舌に異常を感じたといいます。
舌が腫れることもあり、歯形が付いてしまうほどです。
感染初期に起こる兆候で、味覚を失うといいます。 

 

「スペインの研究チームの報告書」がニュース映像中に紹介されており (0:58)、取り寄せて調べてみたところ、引用した記事の黒い太字の部分は誤り、また赤い太字の部分は誤りではないものの、視聴者を誤認させる恐れがあることが分かりました。

順次解説いたします。

 

スペインの研究チームの報告書はこちら

Prevalence of mucocutaneous manifestations in 666 patients with COVID-19 in a field hospital in Spain: oral and palmoplantar findings

 

誤り

スペインの研究チームが感染初期の兆候として「コロナ舌」と呼ばれる異常が発生する事があるとした

論文の中では「コロナ舌」に相当するであろう「corona tongue」「COVID tongue」などという表現はありませんでした。

まるでスペインの研究チームが「コロナ舌」と表現したかのような記事は誤りです。

 

新型コロナウイルスによる体の異常だ

この研究は「横断研究」と呼ばれるタイプの研究手法が取られています。

横断研究と生態学的研究 | 疫学用語の基礎知識

横断研究は因果関係(AとBは原因と結果である、という関係)を証明することはできません。

したがってこの論文では「新型コロナウイルス(原因)による体の異常だ(結果)」という結論には至りません。

筆者らもそんなことは言っていません。

ここの記事も誤りです。

 

新型コロナウイルスの 304 人の感染者を調査

論文では以下の部分が記事に該当すると考えられます。

A total of 666 patients with COVID-19 fulfilled the inclusion criteria: either positive real-time reverse-transcription polymerase chain reaction (RT-PCR) testing for SARS-CoV-2, or bilateral pneumonia. Mean age was 55.7 years; with a slight female predominance (58%). Notably, 47.1% were from Latin America.

Overall, 304 (45.7%) of our patients presented with one or more mucocutaneous manifestations.

調査の対象となったのは 304 人ではなく 666 人です。

304 人は 666 人のうち、皮膚や粘膜に病変が出た方の人数です。

誤りです。

母数を少なく報道してはいけませんねぇ。

 

感染者の4人中1人が舌に異常を感じた

皮膚や粘膜に病変が出た304人の内訳が記載されています。

Overall, 304 (45.7%) of our patients presented with one or more mucocutaneous manifestations. Oral cavity findings were seen in 78 cases (25.7%), ...

翻訳するとこんな感じ。

全体では 304 人 (45.7%)に 1 つ以上の病変が認められた。

口の中のでは 78 人 (25.7%) に病変が認められ、... 

 

皮膚や粘膜に病変があった304人のうちの 78 人=25.7 % に口の中の粘膜病変があった、と記載してあります。

全数は 666 人でしたから、78人は 11.7% ですね。

8.5 人に 1 人ですから、4 人に 1 人は誤りです。

 

また、口の中に病変があった、という記載ですので、「舌に異常を感じた」わけではないかもしれません。

では「舌に異常を感じた」患者さんはどれくらいいらっしゃったのか見てみましょう。

Oral cavity findings were seen in 78 cases (25.7%), including transient lingual papillitis (11.5%), glossitis with lateral indentations (6.6%) (Figure 1a), aphthous stomatitis (6.9%), glossitis with patchy depapillation (3.9%) (Figure 1b) and mucositis (3.9%). 

翻訳するとこんな感じ。

口の中には 78 人 (25.7%) に粘膜病変が認められた。
その内訳は、
・一過性の舌乳頭*1 (11.5%)
・舌側方のくぼみを伴う舌炎 (6.6%)(図1a:写真左)
・アフタ性口内炎 (6.9%)
・パッチ状の舌乳頭喪失を伴う舌炎 (3.9%)(図1b:写真右)
・粘膜炎 (3.9%)
であった。

f:id:masaomikono:20210130163030p:plain

 

舌の病変は3つでした。複数の症状が出ている方もいらっしゃいますし(それぞれの有病率を足して25.7%にならない)、アフタ性口内炎や粘膜炎*2が舌に出ることもありますので、舌の病変が出た具体的な人数までは分かりません。

全員が舌の病変を呈していた可能性もありますが、それでも最大でも 8 人に 1 人 は変わりありません。

「感染者の4人中1人が舌に異常を感じた」誤りです。

母数を少なくしちゃダメですよ、実態よりも多く見えてしまいます。

まさかそう見せたかったわけではありませんよね?

 

(舌が腫れる症状は)感染初期に起こる兆候

今回の研究は、2020年4月10日から25日までの間に軽症〜中等症のCOVID-19患者を調査した結果をまとめたものです。

もちろん調査した時、たまたま感染初期だった患者さんもいるでしょうが、この研究では病期を分類して調査をしてはいません。

したがって、(舌が腫れる症状は)感染初期に起こる、は誤りです。

 

(舌が腫れる症状が出ると)味覚を失う

味覚に関しては以下のような記載がありました。

Burning sensation was reported in 5.3% of patients, and taste disturbances (dysgeusia) were commonly associated.

翻訳するとこのような感じ。

口の中の灼熱感*3を訴えたのは5.3%の患者であり、味覚異常(味覚障害)を伴うことが多かった。

舌が腫れた方に味覚障害が出たわけではありません。

したがって、(舌が腫れる症状が出ると)味覚を失う、は誤りです。

 

誤解を与える恐れ

舌が腫れることもあり、歯形が付いてしまうほどです 

Fig. 1a (図1a:写真)の説明として、以下のような解説文が記載されていました。

f:id:masaomikono:20210130165812p:plain

Glossitis with lateral indentations and anterior transient lingual papillitis due to swelling of the tongue and friction with the teeth.

翻訳するとこんな感じ。

舌の腫れ と、歯との摩擦による、舌の側方のくぼみを伴う舌炎と、舌前方の一過性舌乳頭炎

この患者さんの舌の側方に歯の形と一致するくぼみがあったことは確かですが、これがコロナ感染後に出来たものなのか、前からあったのか、回復後にこのくぼみが改善したのか、という調査はされていません。

また、「腫れた」をどう評価したのかも不明です。腫れていない状態(通常時)との比較がなければ、1回診察しただけでは評価できません。

コロナ感染により舌が腫れ、歯のくぼみが出来た可能性は否定できませんが、この論文だけで結論づけることは不可能です。

したがって、記事で「舌が腫れることもあり、歯形がついてしまうほどです」という表現をすることは正確性を欠き、誤解を与えることになる恐れがあります。

 

おまけ

世界各地で“コロナ舌”と報じられています。

とありましたので、ちょっと調べてみました。

www.nbcnews.com

他には見つけられませんでした。

 

まとめ

「スペインの研究チームが論文を発表した事実」以外の記事はほぼ全て誤り、または誤解を招く恐れのあるひどいものでした。

テレビ朝日さん、こんな報道してていいんですか?*4

 

なお、本ブログは新型コロナウイルス感染症で舌に異常が出る”可能性”を否定するものではありません。

 

追記(歯科関係者向け)

Fig 1b. は地図状舌ですよね、おそらく。

この論文、コントロール群がありません。

パンデミックでコントロール群(非感染者)の診察をすることは接触機会の増加につながってしまい良くないですから、コントロール群の設定がないことは仕方ないと思いますが、一般的にどれくらいの有病率なのか、ちょっと調べてみました。

 

① 地図状舌のレビュー

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32119353/

② 地図状舌のレビュー

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31005233/

③ 地図状舌 188 例(!)の症例報告

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15719084/

 

レビューによると、地図状舌の疫学として以下のようなことが分かりました。

・有病率は 1~2.5%

・小児の有病率は 0.37% から 14.3%、小児期に好発

・最も有病率が高いのは 20~29 歳、約 39.4%

・男性よりも女性の方がわずかに多い傾向がある

 

今回の論文で報告された Fig 1b のような地図状舌を呈した患者が 304 人に占める割合は 3.9%でしたので、COVID-19 患者 666 人に占める割合は約 1.78% です。

 

あれ?ほとんど変わらなくね?

 

患者さんが「舌がおかしい!」と言って来院された場合の説明にお使いください。

 

その他、COVID-19 と口腔内病変に関する論文(仮説多し)↓

Oral mucosal lesions in a COVID-19 patient: New signs or secondary manifestations?

Increased odds ratio for COVID-19 in patients with recurrent aphthous stomatitis

Chikungunya fever and COVID-19: Oral ulcers are a common feature

Oral mucosal lesions in patients with SARS-CoV-2 infection. Report of four cases. Are they a true sign of COVID-19 disease?

COVID-19 - oral manifestations 

 

www.masaomikono.com

 

www.masaomikono.com

*1:舌乳頭:舌の表面の小さな突起状の構造。白っぽく見えるが、炎症などで喪失すると写真のように赤く見える

*2:舌炎という表記があるので舌以外の粘膜の炎症だと思いますが、大勢には影響がないのでまあいいとします。

*3:口の中の粘膜が焼けるような感じ

*4:ウソは池◯彰だけで十分です

吉村洋文大阪府知事へのアンサーソング

1月19日、吉村洋文大阪府知事が、大阪府内にある歯科医院でクラスターが発生していないことから、歯科医院には感染拡大を防ぐための「何かある」とツイッターに投稿した、と報じられました。

吉村知事 歯科医院に「何かある」…府下5500の医院でクラスターゼロ(デイリースポーツ) - Yahoo!ニュース

 

コロナウイルスは口の中、唾液に多く含まれている。なのでマスクが有効だし、飲食の場も指摘される。一方で利用者側がマスクができない環境に歯科医院がある。大阪には5500もの歯科医院があるが、クラスター発生はゼロ。感染対策の賜物と思うが、何かある。何か?専門家には、是非分析してもらいたい。

私自身は大した専門家じゃありませんが、一応感染制御学の博士号を持つ歯科医師です。

お呼びでないかもしれませんが、吉村知事の疑問に頑張って答えてみようと思います。

 

歯科医院で行っている感染対策とは

これまでのところ日本の歯科医院では、幸いにも患者さんを巻き込んだクラスター発生の報告はありません。

(歯科医療従事者が感染した事例や、従業員間で感染が広がりクラスターと認定された例はあります。)

「口を開けている人と接するのにどうして?」「どんな対策をしているの?」という疑問をお持ちになるのは、吉村知事だけではないと思います。

現在、日本の歯科医院では感染対策として「感染経路の遮断」「3密の回避、5つの場面の回避」「感染源の管理」を行っています。

順に紹介していきます。

 

① 感染経路の遮断

歯科医院のスタッフは、常に患者さんの唾液に触れる環境で働いています。

しかも、歯科用のドリルや注水器を使用するため、多量の飛沫が飛散します。

バイオエアロゾルが発生する状況(歯科領域) エアロゾルシリーズ② - 歯科医師・博士(感染制御学)

時には治療中、患者さんが咳き込んでしまうこともあります。

 

もし患者さんが新型コロナウイルスに感染していた場合、その飛沫を吸い込んだり、眼の粘膜に付着してしまうと感染してしまう恐れがあります(飛沫感染)

これを防ぐために、つまり”飛沫感染という感染経路を遮断”するために、歯科医院のスタッフはマスクゴーグル・フェイスシールドを装着しています。

患者さんにも治療直前までマスクを装着してもらい、治療終了後にはすぐにマスクを装着してもらうよう、お願いもしています。

 

また、治療中に出た飛沫は半径1〜2メートルの範囲に飛散し、周囲の環境を汚染してしまうことが分かっています。

バイオエアロゾルはどれくらいの範囲を汚染するのか エアロゾルシリーズ④ - 歯科医師・博士(感染制御学)

もし患者さんが新型コロナウイルスに感染していた場合、飛沫で汚染された環境表面を触り、その手で自分の目や口、鼻に触れてしまうと感染してしまう恐れがあります(接触感染)

これを防ぐために、つまり”接触感染という感染経路を遮断”するために、歯科医院では環境表面の消毒を行っています。

 

また、患者さんの口の中に手を入れて治療をしますので、手が唾液で汚染されないようにグローブを装着しますし、治療の前後には手洗い(手指衛生)を行います。一度患者さんに使用した医療器具は洗浄・滅菌などの再処理を行います。

 

 

② 3密の回避、5つの場面の回避

”3密”が何か、はもはや説明不要でしょう。

多くの歯科医院は予約制になっていますが、予約制であるために患者さんが待合室で長時間待つという状況が起こりにくく、もとから3密になりにくいという特徴があります。

換気はもちろんのこと、さらに診療の開始時間や終了時間をずらしたり、待合室の外で待機してもらうなど、時に患者さんの協力をいただきながら3密を回避するための対策を強化しています。

 

また、休憩室や更衣室で気が緩み、食事中のおしゃべりや食べ物の共有がクラスター発生に関係していることが分かっています(5つの場面)

歯科医院でも食事中はしゃべらないこと、距離をとること、食べ物は共有しないこと、歯磨きも離れて行うことなど、5つの場面を回避するための対策を強化しています。

感染リスクが高まる「5つの場面」|内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室

 

 

③ 感染源の管理

感染源の管理とは、分かりやすく言うと「歯科医院の中にウイルスを持ち込ませないために行う対応」のことです。

発熱や咳、倦怠感などの症状がある患者さんの診察を延期または時間を短縮したり、薬の処方にとどめるなど、患者さんの協力をいただきながら診療を制限、なるべく歯科医院の中にウイルスを持ち込ませないようにしています。

 

また、発熱がある、咳が出ているなど、体調の悪いスタッフは仕事を休むようにしています。

患者さんにとっては治療がキャンセルされ、予定の変更を迫られることになるわけですが、こちらも患者さんの協力をいただきながら、歯科医院の中にウイルスを持ち込まないように気を付けています。

 

 

③’ 感染源の管理 治療前のうがい

治療前のうがいも「感染源の管理」に該当します。

日本歯科医師会のガイドラインでは次のように記載されています。

治療前の感染予防として、まずは、患者に治療開始前に消毒薬で含嗽(うがい)してもらい、口腔内の微生物数レベルを下げることも飛沫感染対策として、診療室の環境を清潔に保つための簡便な手段とされている。
また、治療後における含嗽も感染予防に有効と思われる。

消毒薬としては、ポビドンヨード、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウ ム、クロルヘキシジンなどが挙げられる。

吉村知事が以前より注目しておられるポビドンヨードも有効と思われる、と記載されていますし、アメリカ*やオーストラリア**でも、同様にポビドンヨードなどによる治療前のうがいが推奨されています。

Guidance for Dental Settings | CDC

** https://www.ada.org.au/getdoc/5f6196b5-cdbd-4bec-bc38-0e9d6b0ea5ca/Infection-Control.aspx

 

しかし最近では、本当に新型コロナウイルスの感染リスクを下げるのか科学的根拠が少ないため、積極的な推奨はしない論文*や指針**も出てきました。

Antiviral Activity of Reagents in Mouth Rinses against SARS-CoV-2

** Implications of COVID-19 for the safe management of general dental practice - a practical guide | FGDP

1月15日に日本口腔外科学会から発表された指針でも、治療前のうがいの有効性に関する科学的根拠が少なく、推奨度は「弱く推奨する」と記載されました。

新型コロナウイルス感染症流行下における口腔外科手術に関する指針|会員・医療関係者|日本口腔外科学会

感染蔓延期など無症状の COVID-19 患者が来院する可能性が高まっている状況での口腔外科手術に際し、ポビドンヨードに過敏症など安全性の面で問題がない患者に洗口させることは、手術中のエアロゾル中の SARS-CoV-2の一過性の減量を通じて、術者および介助者が感染するリスクの低減を期待できる。

なお、ポビドンヨードのアレルギーは 0.4% の人に見られたという報告があり、決して少なくないので注意が必要です。

Allergic contact dermatitis from povidone-iodine: a re-evaluation study

  

ここで大切なことは、処置前のうがいは歯科医院のスタッフには利益があるかもしれませんが、実は患者さんには利益が少なく、むしろアレルギーのリスクがある、という点です。

もちろん歯科医院のスタッフが感染しにくい状況は患者さんにとっても大切なことです。

しかし患者さんに治療前のうがいをお願いするのであれば、本当に感染リスクを下げるのか、そしてそれは患者さんをアレルギーのリスクにさらすほど価値があるのか、という科学的根拠を明らかにするのが先ではないのか、と個人的には考えています。

 

なおポビドンヨードには、長期間使用したとき甲状腺機能に異常が出たという報告があります。家で毎日使う時には十分注意してください。

Povidone iodine-induced overt hypothyroidism in a patient with prolonged habitual gargling: urinary excretion of iodine after gargling in normal subjects

 

 

まとめ

このように、歯科医院では「感染経路の遮断」「3密回避」「感染源の管理」の考えのもと、マスクやゴーグル・フェイスシールド、グローブを着用し、環境表面の消毒と手洗い、換気、3密回避、体調不良の患者さんの診療制限、体調不良のスタッフを休ませる、といった感染対策を、時に患者さんの協力を得ながら*1実行しています。

これが歯科医院でクラスターが報告されていない理由です。

 

ゴーグル・フェイスシールドとグローブの着用は医療機関に特有のものですが、それ以外はどうでしょうか。

 

マスクの着用、環境表面の消毒(=よく触るところの消毒)、手洗い、換気、3密回避、5つの場面回避、体調不良なら休む...。

 

どれも特別なことではありません。

すでに政府や専門家会議が「有効だ」と国民に向けて発信している内容そのものです。

特別なことをしなくても、感染を抑えることはできるのです。 

 

以上が、吉村知事の「歯科医院には何かある」に対するアンサーです。

 

あとはこれをいかに忠実に、愚直に継続できるか、だけです。

「何か」に縋りたい気持ちはとても良く分かりますが、本当にそれだけなんです。

 

 

*1:飲食店等でもお客さんの協力を得ながら感染対策を行う必要がありますが、なかなか難しいですよね...。歯科医院はこの点、恵まれていると思っています。